AIと創造力、新たな表現が問う「人間らしさ」とは 「過程にこそ意味がある」作家塩田武士さんたちの流儀

将棋ソフト「PONANZA」が佐藤天彦名人(当時)との2番勝負を制し、コンピューターが判断力で人間を上回ったことを強く印象づけた=2017年5月、姫路市本町、姫路城

 芸術の創造は、長らく最も人間らしい営みとみられてきた。美術や音楽、文学…。生身の人間が時にもがき苦しみながら手がけた作品は、人々の生を豊かに彩ってきた。しかし近年、AI(人工知能)が急速に発展し、イメージやアイデア、文章を瞬時に生み出すようになった。私たちは便利な道具で「新たな表現」を望みつつ、心がざわめく。機械に取って代わられ「人間らしさ」は失われないか。技術の荒波にもまれ、人間とアートはどこへ向かうのか-。(小林伸哉、藤森恵一郎)

■亡き作者の新作 

 作り手の死後、AIの活用で新作が生まれる時代がやってきた。昨年11月、兵庫県宝塚市ゆかりの手塚治虫(1928~89年)原作の人気医療漫画「ブラック・ジャック」の新作が披露された。

 生前作品の物語構造などをAIに学習させ、新作のあらすじを生成。「AIによる提案の意外性」を生かしつつ、シナリオは人間が大幅に手直しした。新しいキャラクターもAIが原案を示し、人間が描いて仕上げた。AIと人間の共作が掲げるテーマは「人間とは何か。生命とは何か」。その深い問いは、手塚が生前追い求めた主題と重なる。

 同月、ビートルズの「最後の新曲」として世界同時配信された「ナウ・アンド・ゼン」も、AIあってこその音楽だ。ジョン・レノン(1940~80年)が70年代に録音したデモ音源はピアノ伴奏や雑音交じりだったが、AI技術を生かし、歌声を抽出した。従来は不可能で、ポール・マッカートニー(81)はこの音源から90年代に曲作りを目指したが、断念していた。没後約43年にして夢はかなった。

■“聖域”進出の衝撃

 AIの高性能ゆえに、作家に脅威を感じさせる事態も起きている。

 2022年11月、対話型人工知能「ChatGPT」が一般公開された。膨大なデータを学習しており、人間が質問や指示する文章(プロンプト)を与えれば、瞬時に回答を示す。小説の執筆だってお手のものだ。

 米国のSF雑誌「クラークスワールドマガジン」は23年2月から一時、投稿の受け付けを停止した。AIによる執筆作品が殺到したからだという。仕事を奪われるとの懸念も強く、米国ハリウッドの脚本家らが同年5月から、ストに踏み切った。

 便利で時間を有効利用できる道具が“人間の聖域”のようだった創作の世界に進出し、担い手を揺るがしている。人類の知性をAIが超える段階「シンギュラリティ(技術的特異点)」は2045年に迫っている-との予測もある。

■プロセスを大事に

 だが、芸術は成果物だけで語られるものではない。

 「生まれてから、今までの時間がかかってるんや」

 絵を描き上げるまでの時間を問われると、彼は決まってこう答えたという。阪神間で生まれた前衛美術集団「具体美術協会」の代表的な美術家、元永定正さん(1922~2011年)だ。人は創作のプロセスを大事にして、何より楽しむ。

 社会派小説「罪の声」などを手がけた作家塩田武士さん(44)は23年12月から、神戸新聞朝刊で情報社会の光と影を描く小説「裏切りの島で」を連載中だ。

 「人は文明を手放せるのか」というテーマに関心を抱き、執筆する塩田さん。AI時代における小説の価値を尋ねた。

 「1、2秒で答えが出ることに人は心を動かされない」と断言。「人間が書くことに意義がある。同時代を生きている人が生み出すことに大きな価値がある。なぜ今書くのかを考え、現場へ行き、人の話を聴く。その過程にこそ意味がある」と力を込めた。

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 AIとどう向き合うか。どう生かすか-。私たちは兵庫ゆかりの作家や研究者らを訪ね歩いて、創作の流儀や考えを聞いてみた。「職がなくなりかねない、と青ざめた」「人間の可能性が広がる。思いもよらない面白いものが出てくるのではないか」。危機感や期待、生身の人間の力が、照らし出される。

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