●「水ほしい」受け
能登半島地震の被災地に少しでも力を貸したいと、熊本市から17時間かけて金沢に飲料水を運んだ人がいる。2016年の熊本地震に遭った松岡武士さん(51)で、周囲に支えられた8年前の恩をいつか返さなければならないと心に刻んでいた。「水がほしい」と訴える子どもの姿を交流サイト(SNS)で見て、「今しかない。絶対に届けなきゃ」と片道約千キロ車を走らせた。
松岡さんは熊本地震で家業の自社ビルが半倒壊となった。水や物資の供給が停止する中、宮崎県の企業などから袋いっぱいのカップラーメンや飲み物が家族に届いた。「このありがたさは言葉では表せない。何とか恩返ししたい」との思いを抱いていた。
1日、能登半島地震が起きた後、インスタグラムで視聴した映像が脳裏に焼き付いた。小学1、2年くらいの男児が体育館の玄関前で「寒い」「水がない」と訴えていた。
「今まで何もできなかったけん、行くしかない」。松岡さんは地元企業から2リットル入りの飲料水384本を譲り受け、勤務先に休みをもらい、5日午後10時にキャンピングカーで熊本を出発した。
車体に「熊本県 がまだすぞ(がんばるぞ)! 災害物資移動中」と書いた紙を貼り、ハンドルを握った。6日午後3時40分、物資の受け入れ先の泉本町倉庫に到着した。
熊本で被災した直後は「将来の不安しかなかった」と振り返る松岡さん。それでも「周りの友人、知人、先輩後輩と助け合うことが何より励みになる。『大丈夫』の言葉で守られている気がした」という。
松岡さんは今後も募金などに取り組む考えで「皆さんの協力があってこそで、僕一人の力じゃない。できる範囲の支援を続けたい」と話した。