〈1.1大震災~震災ルポ〉春蘭の里「必ず再開」 24歳女性代表理事・多田さん

愛犬「レオン」を連れ、春蘭の里の被害状況の確認に繰り出す多田さん。自身の民宿は棟瓦が崩れた=能登町宮地

  ●被害多数も復活信じ 弱音は一切なし

 10日、能登町の山あいにある農家民宿群「春蘭(しゅんらん)の里」に向かった。地震発生以降、状況が詳しく伝わっていなかったものの、点在する建物の一部で瓦崩落などが確認され、他の場所でも被害が出ている可能性が大きいという。修復には時間がかかるとみられるが、現地で出会った関係者からは「絶対に再開してみせる」と力強い言葉が返ってきた。(経済部・若村俊)

 能登町宮地にある交流宿泊所「こぶし」に施設の関係者が身を寄せていると聞き、訪ねた。出てきたのは意外にも若い女性だった。春蘭の里代表理事の多田真由美さん(24)である。

 「避難所の仕事が忙しくて。どの施設がどんな被害を受けたのか、詳しくは分かってないんです」。春蘭の里では、約50の施設が奥能登2市2町に点在するだけに、被害の全容を把握するのは簡単でない。

 多田さんの運営する民宿では瓦が崩れ、家具や家電が散乱した。父の喜一郎さん(75)が1997年に開業した春蘭の里の「第1号」となる大事な宿。少なく見積もっても修繕には数カ月かかるという。

 多田さんが愛犬の「レオン」と集落を巡回するというので、同行させてもらった。崩れた土砂でせきとめられた川は氾濫し、散歩ルートは水没。足元は道路がひび割れ、遠巻きには崩落した山肌が見えた。

 新型コロナが5類に移行し、インバウンド需要が回復に向かう中で起きた地震。宿泊業界への打撃は計り知れず、今後、廃業の動きが出てきてもおかしくない。

 しかし、多田さんは「うちは民宿をやめるつもりはない」と言い切る。「避難生活も勉強ですから」「地域が団結する機会になると思うんですよ」。弱音は一切出てこなかった。

 前向きな姿勢は、春蘭の里への愛着ゆえだ。「子どもの頃は、自宅に見ず知らずの人が泊まるのが嫌で、遊んでくれない親を恨めしく思ったこともあった」という多田さん。しかし、2013年、当時の皇太子さま(現天皇陛下)が世界農業遺産の視察で自宅の民宿を訪ねられた時、気持ちが一変した。

 「親や地域のみんながやってきたことが、こんなに評価されていたなんて」と感動し、春蘭の里の運営に携わることを決意。短大で観光や語学を勉強した後、地元に戻って2年前に代表理事に就いた。

 「地震があって最初は落ち込んだけど、頑張るしかない。地元のみんなの顔を見ると、やっぱり能登に残ってよかったと思う」。力強い言葉に、こちらが勇気づけられた。

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