乗り続けて大丈夫?なぜ起きた?周辺への影響は? ダイハツの認証試験における不正問題についてモータージャーナリストに聞いてみた

自動車メーカーのダイハツ工業が、不正なデータを使って国の認証を取得していた問題について、モビリティジャーナリストでモータージャーナリストの森口将之さんに、どういう不正が行われていたのか、その背景や今後の影響、過去の自動車産業の不正問題について、SBSラジオ『IPPO』パーソナリティの青木隆太アナウンサーが聞きました。

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青木:今回大きな問題となったダイハツ工業ですけれども、どんな企業ですか。

森口:歴史は結構長く、1907年に発動機製造株式会社という名前で創業しています。しばらく経って3輪のトラックを開発し、これが「大」阪の「発」動機っていうことで「ダイハツ」という名前をつけて発売されたというのが、名前のルーツです。60年代になって4輪車を作って、その後トヨタと提携してトヨタの子会社になって、2016年に100%の完全子会社になりました。日本以外に東南アジアにも工場があって東南アジア向けの車種も造っているという感じになっています。

青木:トヨタの関連ということで、てっきり愛知県ゆかりなのかなと思ったんですけど、ルーツは大阪なんですね。

森口:このダイハツというのが「大」というのは大阪の「大」という字なので、今でも大阪に本社があります。

ダイハツの不正 実態とその背景とは?

青木:そのダイハツ工業の不正問題ということで報道は数多くされてますけれども、改めてどのような不正行為を行ったとされていますか。

森口:まず去年の4月に最初に発表があったのが、海外向けの車種に関して、衝突実験をやるんですけれども、そのときに鋭い割れが出ないようなボディーの細工をしたと。これが1個目で、2個目が5月、国内向けの車種に関して、助手席側のドアだけ側面衝突の実験をやって、その結果を運転席側にも流用した。そして記憶に新しい昨年12月は、第三者委員会が調べたところ174件も不正があったと発表がありました。

青木:今回発覚した問題の背景や詳細について、森口さんご自身が把握されていることは何かありますか。

森口:技術的には実は同じ日にダイハツとトヨタから改善してるという発表があったんですが、何が問題かというと、すごく短い期間での開発、これが社内的に義務みたいになっていたと。それで、2011年に「ミライース」っていう車が普通の半分ぐらいの開発期間で出たんですけれども、それが結構売れたので、その後もそれを続けたところ、やっぱり現場の人たちはミスが許されない空気感になってしまって、それで不正がたくさん出てきてしまったと、そういうふうに第三者委員会では報告しています。

乗っていて心配な車種は?周囲への影響は?

青木:この不正問題が消費者や該当車種に乗っている方に与える影響はどんなものがありますか。

森口:この同じ日にダイハツとトヨタが、ほとんどは問題ないですって言ったんですが、「キャスト」という車種、トヨタでは「ピクシスジョイ」という名前ですけども、これに関しては衝突してエアバッグ作動したときに、ドアロックが解除されない恐れがあるという発表しています。これについての具体的な対策は公表されてないので、ちょっと心配ですよね。

青木:消費者だけじゃなくて地域経済、下請けを含めた関連企業への影響もありそうですよね。

森口:もちろん国内だけでもダイハツは大阪だけじゃなくて、九州や関西の他の県とかにも工場があるので、その従業員の方も影響を受けます。また、自動車メーカーは裾野が広いので、下請けの部品を納入する会社も当然影響が出てきます。それから、工場って結構九州地区が誘致したわけで、自治体にとっては法人税など、そういう恩恵も当然あり、生産がストップすると税収に影響が出たり、さらに言えば、工場の周辺の飲食店なども影響を受けたりすると思います。

青木:そもそも今回の問題が発覚したのが、完成検査や型式の指定の認証での不正ということですけれども、これってその自動車を製造から販売していく過程の中で、どの役割を果たしているんですか。

森口:型式指定というのは普通の車は1台1台チェックをして、衝突実験とかブレーキとかランプとか排ガスとか検査しなければいけないんですけども、月に何万台造る量産車もありますから、型式指定っていうのを受ければ、個別に検査せずに済むと。逆に言うとそういう大手の自動車メーカーが造る車に関しては、型式指定は絶対必要です。それから、工場で造った最後のところで、基準に適合しているかをチェックするのが完成検査といわれていまして、当然、道路運送車両法っていう法律がありますから、これに合致してないと法律違反っていうことになる。法律は守らなきゃいけないということで、こういう検査などが行われているということになってます。

青木:型式指定での不正というのは、いわゆる金型部分をまるで何かごまかすようなことになっちゃいますから、出てきた車全部に不正の影響が出てしまってますよね。

森口:今回の発表を見てみますと、そういう金型とかを細工したっていうのはむしろ少なくてですね、数字の書き換え、要するに検査にパスするためにちょっと「盛ってしまった」っていうことですよね。それから、あとは、先ほどドアの話をしましたけど、助手席側だけテストして運転席はやらなかったなど、要するに開発期間を短くしたいっていうのと、あとはコストダウンしたかったということで、例えば衝突実験って車を1台ぶつけるので、その車はもう“オシャカ”になっちゃいます。実験にパスしないと何台も何台もぶつけるわけなので、それが開発費的に響くので、1台で合格するようにちょっと数字を盛ったという背景があるみたいです。

青木:今回の不正問題がこれから自動車産業の規制や検査のその過程にどのような影響を与えると感じますか。

森口:私も報告書をザーッと見たんですけども、日本の承認プロセスっていうのが結構細かい。以前も他の会社の不正があったときにもいわれてたことなんですけども、ちょっと細かすぎ。これ全部やるのは大変だなっていう気持ちもあります。ダイハツはアジアでも造っていて、海外向けの調査結果も今回発表されたんですが、その中でインドネシアでは、昨年中に当局の再確認が取れて、生産を再開しています。日本とインドネシアの認証のレベルの違いというところもあるので、そういう部分も、もう一度考えてもいいのかなと思います。ただ、こういうきめ細かいプロセスが日本の信頼性を生んでいることも確かなので、認証作業そのものは絶対必要で、これからもやってほしいとは思ってます。

なくならない自動車業界の不正や隠蔽

青木:自動車業界では、以前にも三菱自動車やスズキ、日野自動車も不正問題が発覚しているということがありましたけれども、これから他の自動車メーカーや産業全体がこの問題を未然に防ぐために対策をとっていかないといけないかもしれませんね。

森口:そうですね。今言われた中で、三菱自動車のときはリコール隠し。不具合があったときは、リコールをどこのメーカーも出すのですが、それをやると大変だっていうことで、リコール隠しなかった結果、死亡事故に発展してしまったっていうことがありまして、これが非常に問題になって、当時の担当者の重役が有罪判決になりました。

スズキの場合は燃費偽装で数字をちょっと盛ってしまったっていうことで、この場合は命に関わることではないんですけども、それでも役員が辞任する騒ぎになっています。

それから最近で覚えてる方いるかもしれませんが、日野自動車がディーゼルエンジンの不正をやりました。ダイハツと似たような感じで、排ガスを検査に通したいために、いろいろ不正をやってしまったということで、発表して半年後に国土交通省がさっきいった型式指定の取り消し、要するにドライバーでいうところの「免許の取り消し」でもう1回指定を取り直さなくてはならない、そのぐらい厳しい処分が下ったんですね。

青木:ダイハツの車に乗ってる方って、たくさんいらっしゃいますけど、今回問題となっている車種に乗っている方っていうのは、そのままで大丈夫なんですか。

森口:もちろん個人の判断にもよるんですけども、危険だなと思う人がいるのは全然おかしくない話です。ただ、今ダイハツ自身が全車種の生産を止めてるので、代わりの車がない状況なんです。だから、個人的には例えばスズキにちょっと助けてもらうとか、そういうこともあっていいかと思います。あと日本っていう国が皆さん、ちょっとおとなしい。これ良くも悪くもなるんですけど、例えば過去にフォルクスワーゲンの場合は、安全性とは直接関係ないのに企業責任を問う集団訴訟みたいなことが起こっています。このように海外だと、カーメーカーの不祥事はすごい騒ぎになる可能性があるんですけど、日本人の性格が騒動を収めている側面もあるようです。でも、企業の誠意のない姿勢に対して声を上げたい人は、遠慮せずに上げた方がいいとは思いますよ。

青木:今後ダイハツ工業はどのように信頼を取り戻していくべきなのでしょうか。

森口:短期開発の目的が、安くて燃費がいい車を出そうっていうところだったんですけども、そうじゃなくて、総合的にデザインとか、走りとか、そういうところまで含めた「いいクルマ」を造るのがいいかと思います。ユーザーがそれを買って評価するという車社会になると、多分車を開発する人もやりがいを感じながら開発するわけで、そうすると、いい車ができて、買う方もワクワクできるー。そういうクルマ造りが理想です。軽自動車でいうと、ホンダのN-BOXという車は結構値段が高いけど、皆さん買われてベストセラーになってますから、やっぱりそういうクルマ造りにだんだんと移行していってもらいたいなと、車好きとして思ってます。

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