能登半島地震に見たペット防災の現状 避難所に同伴できず起きた悲しい事故【杉本彩のEva通信】

津波警報のため家族と高台に避難した志賀町の柴犬のゴンタくん

石川県の動物愛護団体の方から悲痛な声が届いた。 人とペットの避難についてだ。 元日に発生した能登半島地震の被災地で、 室内でペットと共に 「同伴避難」 できる指定避難所はほとんどないという。 ペットだけ置いて逃げたという人もいるが、 多くの人はペットと共に 「同行避難」 した。 ただ、 その後 「同伴避難」 できる場所がなく、 傾いた家で在宅避難、 車中避難されている人が圧倒的に多いというのだ。 

まず 「同行避難」 とは、 飼い主とペットが同行し、 安全な避難所まで避難することを言う。 しかし、 避難所で同室内で過ごすことができるわけではない。 一方 「同伴避難」 とは、 避難所でも同じ空間で過ごすことができる避難を言う。 飼い主が直接お世話でき、 飼い主のそばにいることができるので、 ペットの不安やストレスも軽減できる。 また、 飼い主にとっても、ペットと一緒にいてお世話することは心の安らぎや支えとなり、 双方にとって理想的な形である。 

しかし、 室内でペットと同伴できるニ次避難所はたくさんあっても、住民の生命の安全の確保を目的とした、緊急に避難する指定避難所においては、ペットと同伴できる所はほんのわずか。テレビなどのメディアで、家族であるペットとの同伴避難が映し出されることはあるが、それはごく一部の好事例、または二次避難所で、ペットと同伴避難できる指定避難所は、石川県内にほとんどないのだという。

県内の動物愛護団体は、震災直後から生活再建までの、ペットの無期限一時預かりなど、自分たちなりにできることを考えて精一杯動いてきたそうだ。 それでも地震発生から2週間以上が経って、 とても悲しい事故が起きてしまった。

被害が大きかった珠洲市で、自宅敷地内の納屋が全焼した事故だ。焼け跡から遺体の一部 が見つかった。警察は、自宅が倒壊したことで納屋で避難生活を送っていた男性とみている。 男性は、 「ペットがいるから避難所に行けない」 と話していたそうだ。ペットと暮らす人の多くは、ペットはかけがえのない家族同然の存在だ。人生の伴侶であり、ただ可愛がるだけの存在ではない。ペットという言い方さえ好ましくないと私は感じているが、皆に共有されている分かりやすい言い方であるため、あえてペットと表現する。 飼い主には、その命を迎えたからには、それを守る責任がある。残念なのは、その責任をまっとうしようとした人が、せっかく助かった尊い命を落としてしまったことだ。もし同伴避難できていたら、このような二次災害はきっと避けられた。

2011年の東日本大震災では、 国の対応の不備によりペットや家畜の命は無視され、動物たちは置き去りにされた。苦しみ抜いた末に餓死という最悪の惨い結果を招いた。また、放浪する動物も多く犬や猫は野良化した。 路上には朽ち果てた痛ましい死骸もあり、救えたはずの命を見殺しにしてしまった政府の初動の悪さが問題視された。そんな教訓を経て、東日本大震災の2年後には、 ペットとの同行避難を環境省が推奨した。 「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」には、 自治体の役割が明確に記されており、平常時から同行避難のための飼い主への啓発など対策を講じるよう促している。 

しかし、石川県内の動物愛護団体から届いた声は、県民への同行避難の普及啓発がほとんど進んでいないというものだった。同行・同伴避難が可能な避難所などを知らなかったり、避難所が室内で同伴できるのか分からないという人もいる。そのため在宅や車中避難を選ぶのだ。他にも、ペットがいるから避難所には行けないなど、仮に同行避難が可能であっても不要な遠慮も多いという。そもそも同行と同伴の避難の違いもまだまだ周知されていないようだ。 

また避難所の運営については、室内か室外か、そのルールは誰がいつ決めたのか不明で、何人かの避難所を仕切る人が公的に決められた人なのか、それとも勝手に仕切っているだけなのか定かではないが従うという雰囲気になっているため、とりあえず従っている、という声もある。 

東日本大震災のときにも同じような声を聞いたことがあった。東日本大震災から間もなく13年、その間にも各地で数々の災害があった。それなのに、ペット防災対策はほとんど進んでいないということだ。もちろん各自治体や地域によってその進みには差があるだろう。 けれど、 ほとんどの自治体でこの課題を完全にクリアできているとは思えない。

もちろん、 災害時にはまず自分の命を守り、自助の備えが必要である。 最低でも1週間分のペットフードやシーツなど、日頃使うモノのストックが必要だ。キャリーケースの中でも落ち着いていられるようにペットが慣れておくことも大切である。 だが、しっかり備えをしていたとしても、逼迫した状況下では倒壊寸前の家屋から備品を持って逃げる余裕などない。ペットとご家族とともに、どうにか命だけはかろうじて逃げるのが精一杯だろう。だからこそ各自治体には、備えを含めた受け入れ体制を平時の時から整えていくべきだと思う。

そのことから環境省には、同行避難だけでなく、さらに進歩した同伴避難を強く推奨していただきたい。そして各自治体には、市民の命を守るためにも、全力でその普及啓発に努め、 動物愛護推進員や動物愛護団体と連携し、ペット飼育者もそうでない人も、公平に避難できるよう整備を進めていただきたい。公助により、人も動物も救える命があることを知ってほしい。 

先述したペットのために避難所に行かなかった男性の死を、 「災害関連死」 にカウントするだけで終わらせてほしくない。(Eva代表理事 杉本彩)

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 杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。

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