能登半島地震のニュース見すぎて心身に不調…「共感疲労」の恐れ 子どもらへの影響、専門家が警鐘

共感疲労への注意を呼びかける廣澤さん=福井県福井市の福井大学文京キャンパス

 能登半島地震から約1カ月。発生以降、テレビのニュースなどで倒壊した家屋や崩落した道路の状況などが克明に伝えられている。被害状況を正しく知り災害に備えることは重要だが、被災者の気持ちに寄り添うあまり精神的なつらさを感じてしまう「共感疲労」に陥らないか注意が必要だ。福井大学術研究院教育・人文社会系部門教授で福井県公認心理師・臨床心理士協会災害支援部会理事の廣澤愛子さん(49)は「子どもを中心に、つらいときは映像を見ないなどの対策をしてほしい」と呼びかける。

◇疑似体験

 廣澤さんによると、共感疲労を感じると眠れなくなったり、無気力になるなどの症状がみられる。地震や津波などで被害を受けた被災地の映像を繰り返し見ることで、疑似体験した感覚になりショックを受けるのが原因。アメリカの同時多発テロ(2001年)や東日本大震災(11年)の後にも「『理由は分からないけれど調子が悪い』と訴える人は多かった」(廣澤さん)という。

 不安は身近であるほど大きくなる。能登半島地震は隣県であるのに加え、福井県あわら市で震度5強を観測するなど福井県民も大きな揺れを体感したことから「我が事として捉えた人は多いはず」。繰り返す余震や、緊急地震速報のアラーム音も不安感を強める要因と廣澤さんは指摘する。

◇遠ざける

 対策として、つらさを感じた時には「テレビを消すなど映像を意識して遠ざけて」と廣澤さん。映像は文字に比べてリアリティーがあり、大画面であるほど衝撃も大きいという。映像はネット上に投稿される場合もあり、ユーチューブの視聴も注意が必要だ。多くの場合「情報から離れるだけでもだいぶ気持ちが楽になるはず」と話す。

 心が発達段階にある子どもは、物事をストレートに受け取ってしまいがちなため特に気をつける必要がある。廣澤さんは「大人のように経験から身構えたり、理解したりすることが難しい。周囲の人が気にかけてほしい」と訴える。

 大人でも使命感や正義感が強い人、感受性豊かな人は「被災者はつらいだろう」「自分も何かしないといけない」などと被災者の気持ちに寄り添いすぎてしまいがちなため要注意だ。

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◇1カ月

 一方、不安につながらないようにとの配慮から「会話の話題にすることを避けるのは逆効果」と廣澤さん。抱えている不安は話すことで軽減されるのに加え、触れてはいけないと捉えることは不安を強くさせてしまう。

 また、災害に備えることも不安軽減には重要だ。家族で非常食をそろえたり、避難の方法を考えたりすることで「ポジティブな考え方を提示できる」という。

 廣澤さんによると、揺れに敏感になり、地震でないのに揺れている感じがしたり、無気力になりぼーっとしたりしてしまうのが「1カ月くらい続くのは普通の感覚」。長く続くようなら「専門家や、子どもであれば学校のスクールカウンセラーに相談するといい」とアドバイスしていた。

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