日光市の中学2年、理菜(りな)さん(14)=仮名=は昨年9月上旬の深夜、母親が(37)が電話で泣きながら生活苦を訴えているのをこっそり聞いた。
理菜さんが「かなり大変な状況」と感じた通り、小学生の弟2人を加えた母子4人の家計は限界に近かった。
当時住んでいた宇都宮市内のアパートの家賃を母親は2カ月滞納していた。払える当てはなく、「強制退去」も現実味を帯び始めていた。食料も底をつき始め、電気は明日にも止められそうだった。
母親は生活保護の受給も考えたが、離れて暮らす両親に連絡が行ったらどうしよう-などと思うと、二の足を踏まざるを得なかった。唯一頼っていたのが、月に1度、自宅に食料を届けてくれる市内のNPO法人ぱんだのしっぽ。
あの晩、母親はわらにもすがる思いで電話をかけていた。
その時提案されたのが、困窮するひとり親世帯への支援策として同法人が無料で貸している、日光市内にある「ステップハウス」への入居。生活苦に翻弄(ほんろう)されるがまま、理菜さんはここにたどり着いた。
◇ ◇
「引っ越しになっちゃうんだけど、いい?」
電話の翌日、そう母親から告げられた理菜さんは、不安を抱きつつもすぐにうなずいた。おおよその状況を理解していたこともあるが、転校することが気にならなかった。
中学1年の夏休み明けから不登校気味になっていた。クラスの雰囲気や友人関係につまづき、たまに昇降口まで行っても、校舎に入ることができない。
「理菜を一人にしておくのは不安だから」
母親は、理菜さんが学校に行かない日は仕事を休み、一緒にいてくれた。母親に負担を掛けていることが分かり、学校に行けないことを重荷に感じていた。
転校すれば、また学校に行けるようになるかもしれない。「そうしたら、お母さんが少し楽になるのかな」。そんな気がした。
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ステップハウスの最大の特徴は、家賃と光熱費がかからないこと。
突然の引っ越しから4カ月。金銭面でのストレスが減ったからか、難病を患う母親が体調を崩す日は少なくなったようだ。立ち仕事が難しいため、事務や自宅でもできる仕事を得ようと職業訓練に通うことを考え始めた。
理菜さんも、毎日ではないし、午後からの日もあるが、学校に少しずつ通えるようになってきた。
「前はお母さんが疲れていると思うと話しかけられなかったけど、今はたくさんおしゃべりできる」
いつまた、どんな困難にさらされるかは分からない。でも、ささやかな出来事が今はうれしい。