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サッカーはピッチ上の技術や戦術のみならず、テクノロジーも日々、進化している。一方で、VARなどの技術の介入、乱用には批判、疑問の声も多い。イングランドで出たVAR廃止論を糸口に、サッカージャーナリスト大住良之がサッカーにおけるテクノロジーのあり方を考える。
■レフェリーを「ピエロの地位から救う」ヒント
もちろん、テレビカメラがピッチで起きていることのすべてを白日の下にさらし、さらにスローリプレーなどで繰り返し「誤審」をアピールしてしまう時代に、レフェリーたちを「ピエロ」の地位から救う手だては考えなければならない。その有力な手段のひとつがVARであるのかもしれない。
だが、その方向性をアマチュアのサッカーにまで進めるのは間違っていると、私は考えている。このレベルに必要なのは、「サッカーの根本精神」を広め、レフェリーの判定を尊重して自分のプレーに集中することを徹底することではないか。それがなければ、「サッカーという文化」は死に絶えてしまう。
ただ、「フットボール・ビデオ・サポート(FVS)」には、これからのサッカーに役立つひとつのヒントがあるような気がする。それはVARの「プロトコル(運用手順)」の見直しだ。VARには、サッカーのルールを統括する国際サッカー評議会(IFAB)の厳格な「プロトコル」があり、VARを使うすべての試合は、それをしっかり守らなければならないことになっている。
■4つも5つも前のプレーで「得点が取り消し」に
だが、VARが正式に認可されて6年、違和感や不快感が一向に消えないのは、このプロトコルのせいではないかと、私は考えるようになっている。少なくとも、これを疑い、別の運用手順を考えるべき時に来ているのではないか。
たとえば得点が決まり、攻撃側が狂喜する一方で、守備側がまったく文句を言わず、ただガックリと肩を落とし、次のキックオフの準備をしようとしているときに、突然レフェリーが試合再開を止め、VARチェックが入っていると告げるのを見ることがある。そして数分後、得点が取り消される。VARがチェックしたのは、得点から4つも5つもさかのぼったところのプレー。「VAR用語」で言えば「APP(attacking possession phase)」、平たく言えば得点につながる攻撃が始まった時点からのプレー内に、何か攻撃側の反則があったというものだった。
たしかに「正しい」かもしれない。しかし、こんなものが必要だろうか。すべてVARの「プロトコル」を厳格に適用している結果なのである。
■プレミア1部ウルブスの提案で生き返る「重さ」
プレミアリーグでのウォルバーハンプトン・ワンダラーズの提案が可決されるためには、20のクラブの3分の2、14クラブ以上の賛成が必要だという。その可能性はまずないと言われている。しかし、それを承知で、敢えて「VAR廃止」を提案したこのクラブの志は大とすべきだと思う。
もしかしたら、「FVS」のように1試合2回までの「リクエスト制」にしたら、チームや見る側のストレスは大幅に低減されるかもしれない。映像を見て主審に「あなたの判定はたぶん間違っているから確認して」と伝える「ビデオ・アシスタント・レフェリー」をなくすことで、サッカーの文化における中核的な思想であるレフェリー(主審)の判定の重さが生き返るかもしれない。
VARが正式誕生して6年、ウォルバーハンプトン・ワンダラーズの提案は、ファンを含め、サッカーにかかわるすべての人がVARのあり方を再考し、サッカーという文化のなかでレフェリングというものをどうしていくか、考えるきっかけになったのではないだろうか。