石崎の底引き網名人引退 七尾の達さん、5カ月ぶり船救出も「潮時や」

クレーンで引き揚げられた漁船「第五長精丸」=七尾市の石崎漁港

  ●損傷ひどく、護岸も使えず

 地震で岸壁が隆起した七尾市の石崎漁港で3日、岸壁に乗り上げていた漁船「第五長精丸」が撤去された。5カ月ぶりに「救出」されたものの、船底などの損傷がひどく、船長の達精一さん(72)=石崎町=は廃業を決断。岸壁の復旧に見通しが立たないこともあり「ここが潮時や。今までありがとう」と引き揚げられた船を見送った。

 達さんは14歳で父の後を追って漁師となった。特産のエビやナマコ、タイなどを釣り、漁師約20人の中でも漁獲量が多い「底引き網名人」として知られるようになった。

 埋め立て地にある石崎漁港は、元日の地震で海側に護岸が陥没、第五長精丸は津波で打ち上げられた。海底には網やロープが漂着し、今も底引き網漁はできない。

 3日はクレーン付き台船が第五長精丸をつり上げて、町内の岸壁に陸揚げした。護岸の修復時期は見通しが立っておらず、船の修繕費に加え、灯油の高騰などで漁に出る負担も増す中、達さんは一線を退くことを決めた。

 2018年の県内の漁業就業者数は2409人で、ピークだった60年前の約4分の1に減った。石崎漁協の漁師も減少の一途をたどり、県漁協七尾支所の竹内大生運営委員長(38)は「また腕のいい漁師がいなくなるが、石崎を必ず復活させたい」と話した。

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