『水ダウ』話題のハニトラ女優は芸歴10年超の苦労人 100円を握りしめて耐えた「貧乏時代」

インタビューに応じた三輪晴香【写真:舛元清香】

あざとい姿の裏側にあった確かな演技力

『水曜日のダウンタウン』への出演を機にブレイクの兆しを見せている俳優がいる。28歳の三輪晴香だ。“ハニートラップ”の仕掛け人として出演し、“あざとすぎる”演技で視聴者の注目を集めたが、その根底には10年以上もの間、磨き続けた確かな演技力があった。Xフォロワー数は6倍にも急増するなど大きな反響を呼んだが、ここに至るまでは地道な長い道のりがあった。(取材・文=中村彰洋)

ドッキリのターゲット・お見送り芸人しんいちを手のひらで転がす好演を見せた三輪。ドッキリでありながらも、しんいちからのキスを受け入れるなど、文字通りの体当たりな演技にダウンタウン・浜田雅功も「うますぎる」とうなるしかなかった。普段からあざとい性格なのではないかと、視聴者を信じ込ませるほどの演技だったが、それはひたむきな努力を重ねた賜物だった。

滋賀県出身の三輪は幼少期に表現することに興味を抱き、中学生の頃から演技や日本舞踊、ダンスに殺陣とさまざまなレッスンに通った。高校は演技を勉強するための学校を選択。劇団にも所属し、舞台づけの毎日を過ごした。当初は「表現することを仕事にしたい」と抽象的な思いを抱いていたが、高校1年生で立った初舞台を機に自分の進みたい道が明確に定まった。

「自分の人生が役として出る、表現とはそういうものなんだと知ったんです。見ているお客さんもそれぞれ歩んできた人生が違うので、伝わり方や感じ方も違う。それに気付いた時、演技をもっと追求していきたいと思うようになりました」

たくさんの舞台に立ちながら経験を積む一方で、高校2年生の頃には「何事も挑戦することが大事」の精神でグラビアに挑戦。『ミスヤングチャンピオン2014』ではグランプリにも輝いた。さらには「ヤンチャン学園 音楽部」のメンバーとして、アイドル活動も経験した。

高校卒業後には、満を持して上京を決断するも、待っていたのは順風満帆とはかけ離れた現実だった。

「本当にお金がなかったんです。アルバイトをして、仕送りをもらいながらも、『明日まで100円でしのがなきゃ』みたいな生活を送っていました(笑)。欲しいものもたくさんあったけど、成功して買えるようになるまで頑張ろうと鼓舞していました。貧乏でしたが、『好きなことができるんだったらそれでいい』みたいな感じでしたね。『今の頑張りが後々お金としてついてくるんだ』と思いながら過ごしていましたね」

舞台を主な表現の場としていた三輪にとって、コロナ禍は大きな転機となった。表現の場を探す中でTikTokでの発信にたどりついた。

「当時はTikTokがはやっていて、見てもらえる場所がそこしかないという思いで始めてみました。本当にSNSに疎いんですけど、1からいろいろ調べたり、分析もしました。でもフォロワー数も全然伸びず、『何をしたらいいんだろう』と友達に相談したときに、『そのままの晴香を見せれば?』と言ってくれたんです。

『そのままの私って何?』と思っていたんですけど、友達が撮影してくれた、なんてことない食事の風景をアップしたら『あざといね』といったコメントがついたんです。そのとき、『私ってあざとく見えているんだ』と初めて気付いたんです。それなら、私にしかできないあざとい芝居をしようと考えて、ドラマ仕立ての動画を投稿するようになりました」

三輪晴香の素顔に迫った【写真:舛元清香】

出演映画『初めての女』は転機の作品「撮影期間は性格がガラッと変わりました」

撮影テーマを決め、それに合った服装や髪型など自分の頭の中で台本を描き、2021年末ごろからコンスタントに投稿を続けた。その結果、TikTokフォロワー数は8万人近くまで増え、『水ダウ』スタッフの目にも留まったことが、出演の要因ともなった。今回の“バズリ”も地道に努力を重ね続けたがゆえのものだった。

たくさんの挫折も経験してきたが、そんな時に頭に思い浮かぶのは二人三脚で支えてくれた母の顔だ。「母子家庭で、お金が無いにもかかわらず、いろんなことを経験させてくれました。母にずっと背中を押してもらっていたので、『こんなとこでやめたら母に申し訳ない』と思いながら、何度でも立ち上がることができました。あまり褒めてもらうことはないのですが、今回の『水ダウ』ではちょっとだけ褒めてもらえたので、うれしかったです」。

6月22日からは出演映画『初めての女』の公開も控えている。同作では芸者を演じているが、三輪にとって大きな転機となった作品でもある。

「昔から芸者になりたいという夢もあったんです。日本舞踊や三味線もずっと習い続けていて、それを作品の中で披露することができました。今までの経験がむだにならずに作品に反映されるということがすごいうれしかったです。

実在していた人を演じたのですが、その方が私に乗り移ったかのような感覚になって、ご飯が食べられなかったり、スマホも触れなかったりといった日々を過ごしたんです。私はポジティブな性格なんですけど、真逆の役だったので、撮影期間は性格がガラッと変わりました。今まで演じてきて、こういう感覚になったのは初めてで、新しい経験でした」

同作は、19年に撮影を終えていたが、コロナ禍の影響で公開が延期に。5年越しにようやく公開へとこぎつけた。そんな転機の作品が、注目度が高まった時期での公開となったのもなにかの縁なのかもしれない。

“あざとさ”で話題を集めることとなったが、その素顔は「真面目で頑固」。俳優としてのブレない信念を持っている。

「私の芝居を見て、『元気になれた』とか『夢ができた』みたいに思ってもらいたいんです。誰かの人生を変えられるような演技をしたいです。有名になりたいとかではないのですが、そう思ってくれる人を増やすためにも、私の芝居を見てくれる人を増やしたいです」

これまでのひたむきな努力がようやく実を結ぼうとしている。眼前に捉えたブレイクの兆し。このチャンスをむだにすることなく今後もさらなる成長を誓う。

「役者としては本当にまだまだだと思っていますし、限界はないと思っています。芝居は生活の一部で、表現することで私は生きているんだと思っています。全ての経験が、芝居に活きてくると思うので、いろんな引き出しを見つけていきたいですし、これからも演技をずっと追求していきたいです」

□三輪晴香(みわ・はるか)1996年1月4日、滋賀県出身。中学生から演技レッスンに通い、高校1年生で初舞台を経験。以後、舞台を中心に経験を積み、ドラマや映画など幅広く活動する今注目の俳優。2024年6月22日には出演映画『初めての女』が公開される。中村彰洋

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