情報漏えいは県警不祥事隠蔽への反乱だったのか 「警察官として信じる道を突き通した」と動機を語る前生活安全部長 正義感か後付けか、現場に広がる共感と懐疑 

 鹿児島県警の不祥事隠蔽(いんぺい)を訴えたかった-。国家公務員法(守秘義務)違反疑いで逮捕、送検された県警の前生活安全部長で無職の男(60)は、5日の勾留理由開示手続きで「多くの人に迷惑をかけたが、警察官として信じる道を突き通した」と意見陳述した。終始伏し目がちに、事前に用意した書面を淡々と読み上げた。

 上下黒色スーツにノーネクタイ姿で現れた容疑者。背筋を丸め、少し前かがみになりながら小さな歩幅で入廷した。着席すると床のどこか一点を見つめた。裁判官から証言台に移動するよう促されても反応は鈍く、動き出すまで数秒の間があった。つい先日まで県警幹部を務めていた機敏さは感じられなかった。

 「野川明輝本部長が不祥事を隠蔽しようとする姿にがく然とした」「県民の安全より自己保身を図る組織に絶望した」。語り口調に抑揚はないものの、強い表現で動機を吐露した。

 唯一警察官らしさが垣間見えた瞬間は裁判官に向かって礼をする場面。指先をそろえて力を込め、体の側面にぴたりと当てたまま頭を下げた。「不祥事を明らかにし、後輩にとって良い組織になってもらいたかった」。傍聴席には現職警察官の姿もあったが、退廷まで目線を向けることはなかった。

◇割れる評価

 鹿児島県警の前生活安全部長は正義感を強調した。現職中に知り得た情報を退官後に第三者に漏らしたとして逮捕された事件の動機について「県警職員の犯罪行為を隠蔽しようとした本部長を許せなかった」と述べた。共感の声が上がる一方、現職の警察官やOBからは「文書を流出させる以外の方法があったのではないか」「矛盾点が多く後からこじつけたようにも感じる」と戸惑いが広がった。

 「若手の言い分ならまだ分かるが、本部長に直接意見できる最高幹部の立場だった」。元幹部は「裏で情報を流すのではなく、退職後に記者会見を開くなど方法はあった」と話した。現役警察官は「最後に責任を取る立場の本部長を説得できるだけの説明を尽くすべきだった。諦めたのであれば力不足だったと納得するしかない」と指摘する。

 5日の勾留理由開示手続きで、容疑者は野川明輝本部長が警察官の不祥事を隠蔽しようとした疑いについて主張。5月14日に盗撮などの容疑で現役警察官が逮捕された事件で、野川本部長から「泳がせよう」などと言われ、「捜査指揮簿」に押印してもらえなかった点を挙げた。

 捜査指揮簿は、事件を担当する課長らが日々の捜査予定や進捗(しんちょく)状況について指揮した事項を記載し、所属長に報告する文書。元警察官は「張り込みや参考人呼び出しなど捜査の節目ごとに押印をもらう。どの段階で印をもらえなかったのかが重要だ」と語る。

 ベテラン警察官は「(盗撮事件は)最終的に逮捕された。『泳がせる』は時期を見極めようとした発言で、隠蔽と言うには時期尚早だったのではないか」と疑問視した。

 容疑者と仕事をしたことがある関係者は複雑な胸中を明かす。容疑者が新人の頃を知る元警察官は「昔の恩を忘れず律義で正義感が強かった。外部に情報を伝える方法は問題だが、権力を恐れない姿勢には共感する」。容疑者の部下だった現職警察官は漏らした。「真面目で寡黙な印象の人。後輩のための行動なのであればうれしい気持ちもあるが、何が本当なのか分からない」

© 株式会社南日本新聞社