どうやって手に入れる?人生100年時代に耐える”カラダ”ロボットの支援で進化する精密手術

日本でも盛んに話題になる「人生100年時代」。これは英国ロンドンビジネススクールのリンダ・グラットン教授が出版した「LIFE SHIFT(ライフ・シフト)」の中で、衛生状態の改善、医療の進歩や、大規模な戦争や紛争が減ったことにより平均寿命が伸び「やがて100歳まで生きるのが当たり前になる時代が来る。長寿時代に向けて従来の社会制度や人生設計を見直そう」と呼びかけたことが始まりです。そして、長寿国の日本は世界でどこよりも早くこの時代に突入したといわれています。

【写真を見る】どうやって手に入れる?人生100年時代に耐える”カラダ”ロボットの支援で進化する精密手術

社会制度はすぐに変えられても、変えられないのが人間の身体です。寿命が伸びても、身体機能が同様に長持ちしてくれるわけではありません。特に「運動器」と呼ばれる、手足の関節などは加齢に伴い骨がもろくなったり、軟骨が磨り減ったりするなどして変形するため、痛みに苦しむ人口が急増しています。

その場しのぎに痛み止めを服用したり、サポーター、杖などを使ったりしても根本的な解決にはならず、痛みをかばった動きをすることで今度は問題のない箇所に障害が起きてしまうこともあるようです。

「壊れたなら、その部品を交換すればいいー」。1890年ドイツで象牙で作った人工膝関節の置換手術が世界で初めて行なわれて以来、人工関節の技術は「より安全に、より正確に」を目指して進化してきました。

オペ技術は、地図からナビ、そしてロボット支援へ

「人工関節手術の進化は自動車の運転技術のそれに酷似しています」と聖隷三方原病院の冨永亨関節外科部長(54)は説明します。「初期の手術は、ドライバーである医師が地図を見ながら目的地に向かう感じ。方向感覚が優れた医師とそうでない医師とで術後の成績に差が出てしまっていました」

骨のここをこれだけ削ろうと計画しても、その場所を精密に知ることは難しかったそうです。

「そこで登場したのが”ナビゲーション技術”です。車のナビと同様、どこを削るかを案内してくれるシステムで、手術の精度が飛躍的に向上しました。そして、最新のテクノロジーがロボット支援技術。レーンを外れそうになったら、ステアリングを戻したり、何かに衝突しそうになったら事前にブレーキが介入したりする様な機能を持っています」

同病院が人工関節置換手術用に導入したのが米国ストライカー社の「ロボティックアーム手術支援システム」です。同社によると、2006年に開発された同システムを使って行なわれた手術は2023年12月末までに日本国内で2万例以上。手術を受ける患者はまずCTスキャンで関節の細密なデータを採取され、数週間かけて手術の計画が立てられます。

当日は関節につけた赤外線マーカーとデータを突き合わせ、予定通りに手術が進みます。「ナビのようにこの先何メートルという指示だけでなく、医師が握るロボットアームが決められた分だけ動き、削りすぎそうになるとピタッと止まるので、周りの筋肉や神経を切ってしまうミスが激減しました。また、関節部分の露出が必要最低限になるために、感染リスクや術後の炎症の程度がとても低くなります」と冨永医師は話します。

正確なデータを元に最適なサイズの人工関節を用意できることから器具を準備する医療スタッフの負担も減り、医師は事前にシミュレーションが可能なので「開いてみたら状況が違った」という心配から開放され、手術に集中できるというメリットもあるそうです。

さらに従来の方式と比べると術後の治りも速いというデータもあり、ロボティックアームによる手術支援は今後の人工関節置換手術の主流になっていくのではと見られています。

痛みが出たら医師に相談、100歳まで動ける喜びを

事故などによる骨折の場合は機能損失を防ぐために手術が避けられないこともありますが、経年変化(老化)に伴う痛みに悩む高齢者が、この手術を受けるべきタイミングはいつなのでしょうか。冨永医師は「歩くと痛むようになってきたら医師と相談を始めるサインだと思ってください」と説明します。

ギリギリまで我慢した結果、歩行できないようになって手術を考える人も少なくないようですが「手術の後にはリハビリが待っています。たとえ手術が成功しても、歩けるようになる筋肉の発達が望めず、リハビリがままならなくなれば、再び歩けるようになるという目的に近づくことができません」

冨永医師は100歳まで動ける体でいるためには、痛みの初期から医師と選択肢について会話を重ね、どのような生活を送りたいか、それには何が必要か、を自分で見定めることが重要だと強調します。

「思うように動けない状態は身体的な痛みに加え、心理的な痛みも伴い、元気だった人が落ち込んでしまう姿をたくさん見てきました。多くの病院で受けられる手術なので、リハビリや通院などの環境も考えた上で、タイミングを逃さず受診してください」。

© 静岡放送株式会社