香港特別行政区政府 駐東京経済貿易代表部 首席代表   欧慧心(ウィンサム・アウ)さん

今年2月に発表された財政予算案では、北部都会区の開発やイノベーション科学技術の企業誘致など、香港経済の発展を促進する内容が多く盛り込まれた。これらは、日本企業にとっても注目すべき情報である。今回は特別インタビューとして香港特区政府駐東京経済貿易代表部の首席代表を務める欧慧心(ウィンサム・アウ)氏に、香港の経済発展や日本との連携などについて伺った。(編集部 楢橋 里彩)

欧慧心(ウィンサム・アウ)さんプロフィール

1998年に香港大学卒業後、政務職として香港特別行政区政府入り。康楽・文化事務署に勤務後、シンガポールにあるアジア太平洋経済協力(APEC)秘書処に出向し、3年間駐在。2010 年に香港に戻り、工業貿易署で香港と中国本土の通商関係を担当。運輸・物流局首席助理秘書長を務めた後、2023年4月から現職。

――2月に発表された財政予算案では北部都会区の開発やイノベーション科学技術分野の投資など、香港経済の発展を促進する内容が多く盛り込まれました。具体的にどのような分野の発展が期待できますか。

香港特別行政区政府(以下、政府)の2024~25年度財政予算案は、引き続きグリーンな発展とデジタル経済に重点を置き、産業を質の高い発展へと導く措置を打ち出しました。国の第14次5カ年計画の下、香港は「8つの重点分野」をさらに発展させていきます。中でも重きを置くのは、国際金融センターおよびイノベーション・テクノロジー(I&T)の国際ハブとしての香港の地位強化です。

金融分野で政府は専門家の提言を受け、株式譲渡にかかる印紙税の引き下げや複数の専門技術セクターを対象とした上場制度の合理化など、競争力強化に向けた諸施策を実行しています。取引メカニズムの改善や投資家サービスの向上といった追加的な措置も検討中で、香港は今後も世界をリードするグリーン技術と金融の中心地、人民元業務ハブとして、グリーンボンドなどの多様な商品を提供し、より多くの香港上場株式の人民元建て取引を可能にしていきます。

I&T分野では、生命・健康技術、AIとデータサイエンス、フィンテック、先端製造業と新エネルギー技術に重点的に取り組みます。この1年で当該分野のグローバル企業約50社と戦略的パートナーシップを結んでおり、これにより総額400億香港ドル超の投資と約1万3000人分の雇用がもたらされる見込みです。

6月初旬まで開催された「チームラボ:コンティニュアス」

――新型コロナ流行収束後の正常化の進展、観光誘致や景気回復の見通しについてお聞かせください。

政府は、より多くのメガイベントや国際会議の開催を通じて、香港をビジネスと観光の一流デスティネーションとして確立すべく動いています。香港はパンデミック中も観光資産の充実と強化を怠らず、「M+」と「香港故宮博物館」という世界クラスの美術館を相次ぎオープンさせました。また香港は世界中のパートナーと協力しており、添馬公園で3月から6月初旬まで展示された「チームラボ:コンティニュアス」はその代表例です。

コロナ後の正常化についてですが、香港域外に親会社があり香港で事業を営む企業数は昨年9000社を超え、コロナ前の高水準へと回復したことが政府調査で分かっています。日本企業の数も若干増えて全体の15.5%を占める1400社超となり、引き続き外資系企業のうち最多です。香港はこれからも優位性に磨きをかけ、国際ビジネスハブの地位を維持・強化して、世界の企業と共に繁栄を目指します。

昨年11月の「香港映画祭 2023 Making Waves」

――基本法23条に基づく「国家安全条例」が3月23日に施行されましたが、日本の外務省報道官による「一国二制度」を損なうとするネガティブな発言もあります。こうした海外からの発言に対する見解と、法整備のメリットについてお聞かせください。

日本の外務報道官談話で表明された見解とは異なり、実のところ国家安全条例は「一国二制度」の実行に不可欠です。同条例は「一国」の安全を効果的に守りつつ、「二制度」の下で香港特別行政区の長期的な繁栄と安定を確保するものだからです。

同条例は社会に安全をもたらします。安全な社会は安定し、安定した社会は繁栄します。安全で安定した環境は、事業活動や企業の成功にとって極めて重要であり、それがなければ企業は経済的損失を被ったり、投資や事業が妨害されたりする可能性があります。安全で安定した環境があることで、香港は企業や投資家にとって魅力ある場所となるでしょう。

また注目すべきは、同条例には人権と自由が確実に保護されるための規定が盛り込まれている点です。同条例では、人権が尊重され保護されること、そして権利と自由が保障されることが明確に定められています。これらの権利と自由には、基本法と香港特別行政区に適用されている2つの国際規約の規定に基づいて享受されている言論、報道、出版、結社、集会、行進、デモの自由が含まれます。私たちは今後とも、このような同条例のメリットを日本や世界に説明していきます。特に安定と安全をもたらす同条例の効果について経済界に伝える努力を続けます。

「香港春節レセプション」でスピーチ

――今後の日本と香港の協力推進においてはどのような分野が重視されていますか。

香港と日本の間にはすでに緊密な絆が築かれていますが、ビジネス・貿易から文化交流や観光まで、あらゆる面でさらなる関係強化・深化に努めていきます。ビジネス面での最近の取り組みとして、日本企業に香港の良好なビジネス環境と優位性を体感してもらうための業界特化型・香港視察ミッションがあります。日本の食品・飲食業界を対象とした昨年4月のミッションには19社の企業が参加し、香港飲食業界の紹介、香港の投資家とのマッチングなどを含むプログラムを実施しました。今年5月には生命健康科学業界向けミッションが行われ、スタートアップやベンチャーキャピタル計13社が香港を訪れました。プログラムでは「アジア・グローバルヘルス・サミット」参加、香港サイエンスパーク視察、香港の業界企業や投資家との交流会などが行われました。さらに、香港の活気あるビジネス環境、多彩なスタートアップ・エコシステムやI&T分野の積極的な取り組みを日本の経済界に紹介するため、東京都が5月中旬に主催した国際的なスタートアップイベント「SusHi Tech Tokyo 2024」に香港シティパビリオンを設置しました。パビリオンにはインベスト香港や香港サイエンスパークとともに香港のスタートアップ企業20社が出展しました。

一方、香港と日本の文化交流を促進すべく、香港経済貿易代表部では各種文化事業の企画・支援を積極的に行っています。最近では香港中楽団、アジアユースオーケストラ、香港ダンス・カンパニーの日本各地での公演を支援しました。また香港映画のプロモーションにも力を入れています。過去13年間にわたり「大阪アジアン映画祭」に協賛し香港映画作品を紹介してきたほか、22年には独自の香港映画祭「Making Waves」を開始しました。昨年11月に東京で実施した第2回の好評を受け、今年は東京に加えて大阪と福岡でも開催を予定しています。

「アジア国際ユースサッカー IN 鳥取」に協賛

――日本企業の誘致対策について教えてください。

香港は、今も昔も「中国本土とアジアや世界を繋ぐ結節点」です。アジアの中心に位置する戦略的立地、国際的なビジネス環境、そして人と人、ビジネスとビジネスを繋ぐ香港人の力が、結節点としての香港を支えてきました。ひと昔前からの本土でのモノの製造と海外との貿易・決済だけでなく、現在は海外からのモノやサービスの粤港澳大湾区(GBA)や本土への展開、本土やアジア市場へのトレンド発信、香港を足掛かりに海外進出する本土企業との協業、加えてそれら幅広い業務の統括などの拠点として活用されています。日本企業には、ぜひ香港をフル活用し、事業発展を追求していただきたいと思います。

飲食・食品、消費財やコンテンツ産業といった日本のB2Cの企業には、日本ブランド・製品をこよなく愛する香港市場の購買力だけでなく、香港のトレンド発信機能を生かしてGBA、本土、アジア市場へと広く展開されることをご提案します。日本が強みとするI&T分野においては、事業会社は香港での国際共同研究や香港や本土のスタートアップとのオープンイノベーションの模索を、そしてスタートアップには香港での資金調達や事業開発支援を受けながら海外事業を立ち上げることをお勧めします。政府では各種の助成金や支援策を用意していますので、ぜひご活用ください。

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