「猫が顔を洗うと雨が降る」というのはなぜ? 猫と天気にまつわる言い伝え

顔を洗う猫(写真はイメージ)【写真:写真AC】

現代のように気象観測の技術が発達していなかった昔は、雲や風の様子、生き物の行動などを観察して、経験則より天気を予測してきました。現代も受け継がれているものがたくさんあります。「猫が顔を洗うと雨が降る」もそのひとつ。なぜそういわれるのでしょうか。日本古来の伝承や風習、先人の知恵など諸説に着目するこの連載。今回は、本格的な梅雨シーズンを前に、猫にまつわる天気の言葉についてお届けします。

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昔から身近な存在の猫 仕草に天気の暗示も

気象観測の技術が発達していなかった昔は、空を眺めたり、風の向きを意識したり、生き物の動きを参考にしたりして天気を予想していました。「観天望気」と呼ばれ、その地に暮らす人々に共有されてきた長年の経験則です。

たとえば「夕焼けは晴れ、朝焼けは雨」や「ミミズが地面を這うと晴れ」「くしが髪に通りにくいと雨」などがあります。地域限定のものだったり、科学的根拠がなく単なる迷信にすぎないものだったり、天気にまつわる言い伝えはさまざまです。

猫に関するものもいくつかあり、今も広く知られています。日本では、弥生時代には存在していたとみられている猫。人々は暮らしの中で猫と接するうちに、野生時代の習性から天気を暗示する仕草を見せることがあると考えたようです。

猫のどんな様子から天気を予想していたのか、代表的なものを紹介しましょう。

「猫が顔を洗うと雨が降る」といわれる理由

「猫が顔を洗うと雨」という言葉を聞いたことがある人は多いでしょう。「猫が顔を洗う」とは、自分の前足を舐めて、その前足で顔をこするグルーミングのことです。一般的に、口の周りについた食べ物の臭いや汚れを落としているといわれますが、それだけではありません。雨の予兆で湿度が高くなると、ヒゲが重くなり、これを整えるために顔を洗う動作をすると考えられています。

猫のヒゲは、神経が集中する感覚器官でとても敏感です。顔全体から生えていて、センサーのように湿気や気圧の変化を感じ取ることができるのです。そのため「猫のヒゲが下がっていたら雨」とか「耳の後ろまで顔を洗うと雨が降る」「耳の前で終わらせるときは曇り」などの説もあります。

また、雨が近づき湿度が高くなると、猫の顔についたノミが活発に動き出してかゆくなり、猫が顔をよくこするようになることも。そのことから「猫が顔を洗うと雨」といわれるようになったとの説もあります。

猫がよく寝ている日も雨? 狩猟本能に理由が

「猫がよく寝ている日は雨が降る」といわれるのは、猫の狩猟本能に由来します。猫は、もともと捕獲した小動物を主な食糧としていました。雨が降る日に狩りに出ても、獲物は外にいません。そのことを本能的に知っている猫は、雨の予兆を感じると体力を温存するために寝ると考えられたことが関係しています。

また、猫の毛は水分を吸い込みやすく、雨で体が冷えてしまいます。それを避けるために雨が降りそうな日は出かけず、安全な場所でじっとしている様子から「猫がよく寝ている日は雨」の言い伝えにつながったようです。

「猫の目天気」とはどんな意味?

このほか、猫にまつわる天気の言葉として「猫の目天気」があります。晴れたり、雨が降ったりと、目まぐるしく変わる天気を指す言葉です。

これは、猫の目が明るさによって変わることに由来しています。猫の瞳は、明るいところでは狭くなり、暗いところでは大きくなるなどして見た目が変わります。このことから、晴れたり、雨が降ったり、大気の状態が不安定でコロコロと変わりやすい空模様を、猫の目にたとえて「猫の目天気」というそうです。

もうすぐ梅雨シーズンが本格化。近年は、温暖化などの影響で豪雨や猛暑など異常気象が起こりやすく、昔とは天候が異なることも多いですが、身近に猫がいるのであれば、仕草と天気との関係をぜひ確認してみてください。

鶴丸 和子(つるまる・かずこ)
和文化・暦研究家。留学先の英国で、社会言語・文化学を学んだのをきっかけに“逆輸入”で日本文化の豊かさを再認識。習わしや食事、季節に寄り添う心、言葉の奥ゆかしさなど和の文化に詰まった古の知恵を、今の暮らしに取り入れる秘訣を発信。

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