やるべきことを徹底する東山が勝利。劇的なエンディングを迎えたインハイ京都予選の決勝には、サッカーの根幹となるものがあった

全国大会出場をかけたインターハイ京都府予選。6月9日に行なわれた決勝は、4大会連続6回目の出場を狙う東山高と、初めての全国大会出場を目ざす大谷高の顔ぶれとなった。

大谷はOBの中川智仁監督が就任した2020年から再強化がスタート。今年の3年生は指揮官自らがスカウトし、「京都橘と東山を倒して新しい歴史を作るということに賛同して、集まってくれた」(中川監督)世代で、1年生大会でも府の上位に入るなど期待されてきた。

チームのスタイルは明確。「目ざしたのは、ボールと人が動き続けるサッカー。相手がどうとかではなく、自分たちのスタイルを確立することで、京都のサッカーを変えたい」(中川監督)。

絶対王者と言える東山が相手でもスタンスをぶらさず、GKからパスを繋いで相手エリアに前進。得点には至らなかったものの、26分にはMF西内輝(3年)が、GKが前に出て無人となったゴールを狙うなど、圧倒的有利と思われた東山を追い詰めていく。

対する東山は怪我人やコンディション不良の選手がいた影響は大きく、後半に入ってからも自分たちのリズムで試合が進められない。

「本当は前半の立ち上がりから勢いを持ってプレッシャーをかけたかったのですが、どうしても選手は勝たなければいけないと感じていたと思う」。福重良一監督の言葉通り、“連覇を自分たちの代で絶やしてはいけない”という重圧があったのも間違いない。

後半も大谷のFW太仁紫音(3年)がカットインから決定機を迎えるなど、失点してもおかしくない場面が度々見られた。

それでも東山は粘り強い守備で無失点を保つと、延長戦突入間近の70+1分に試合を動かす。左CKから放ったFW山下ハル(3年)のヘディングシュートは大谷のGKに阻まれたが、「みんな延長になると思っていたと思うのですが、僕はこの70分で絶対に終わらせるという気持ちで最後までやっていた」と振り返る山下は諦めていなかった。

ビルドアップのためにGKがキャッチしたボールを自らの足もとに置くのは準決勝の映像を見て把握済み。シュートを止められた流れのまま、GKの背後で気配を消した山下は手からボールが離れた瞬間を奪って、無人のゴールに流し込む。この得点が決勝点となり、東山が1-0で勝利した。

勝敗を分けたのは、たった一つのプレー。奇をてらった形かもしれないが、勝負にこだわって日々、積み上げてきたからこそ生まれた得点であるのは間違いない。

「今日のスタジアムでは声が響かない。フィールドの選手が(後ろから奪おうとしていることを)伝えても分かっていない状態であるのは、彼が一昨年の選手権でスタンドにいたからこそ、学んだことだと思う」。そう話すのは福重監督で、山下はこれまで練習試合や準決勝でも度々、得点の形を狙っていたという。

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得点に至るまで無失点を継続できたからこその勝利でもある。「日頃から東山らしさを持たなければいけないと思っている。ハードワークや攻守の切り替え、粘り強さは日ごろの練習による積み重ねでしかない」。DF辻綸太郎の言葉通り、決して華麗ではないかもしれないが、やるべきことを1試合通して徹底する、いわゆる“高校サッカーらしさ”を貫けるのが東山の特長であり、勝負強さの原動力だ。

今年は黒田剛監督のもと、そうした“高校サッカーらしさ”を徹底するFC町田ゼルビアがJ1で首位に立ち、席捲している。福重監督と黒田監督は大阪体育大学の同級生で、今でも小まめに連絡を取る仲。

福重監督は「憎たらしいけど、応援している」と冗談を口にしつつ、続ける。「全てではないけど、高校サッカーでやっていることがやっぱりリンクされているし、黒田が言っている言葉は、青森山田のロッカールームと一緒だと思う。黒田がプロの世界でもやれているのは、高校サッカーの指導者にとって励みになる」。

町田の躍進やインテンシティを求める現代サッカーの潮流もあって、そうした高校サッカーらしさが見直される風潮があるように感じる。「やっていることが、日本サッカーに少なからず影響を与えているのかなと思えれば、また僕らも励みになる。もっともっと勉強して、16歳から18歳の選手にいろいろ還元していきたい。高体連の選手でも鎌田大地のように日本代表にもなれると伝えていきたい」(福重監督)。

劇的なエンディングを迎えた京都予選の決勝には、高校サッカーが長年積み上げてきたサッカーの根幹となるものがあった。

取材・文●森田将義

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