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アジアが誇る“英雄”のファイトが日本で見られることになった。7月28日の『超RIZIN.3』。初開催となるさいたまスーパーアリーナ・スタジアムバージョンでのビッグイベントに登場するのはマニー・パッキャオだ。
言わずと知れたボクシングのスーパースター。ライトフライ級からスーパーウェルター級まで11階級で闘い、6階級で世界タイトルを獲得。母国フィリピンを飛び出し、ラスベガスでも何度となくスーパーファイトを行なった。
またフィリピンでは下院議員を務め、大統領選挙にも出馬している。紛れもない国民的ヒーローであり、世界中のボクシングファンに知られた存在。
そんなパッキャオがRIZINと契約。2019年にリング上で挨拶をしてから5年、ついにゲストではなく“実戦”を迎える。RIZINはフロイド・メイウェザーに続いての超大物参戦を実現させた。
ファイトの形式は「RIZINスタンディングバウト特別ルール」3分3ラウンド、68kg契約。メイウェザーと同様、ボクシングに準ずるルールとなる。
ボクシングの公式戦ではない。ただパッキャオは、契約書の時点から「エキシビション」という表現を使わないよう主張していたそうだ。6月10日の記者会見でも「これはエキシビションではなくファイト、ノックアウトするためにベストを尽くす」と語った。
対戦相手は鈴木千裕。RIZINフェザー級チャンピオンであり、今のRIZINで最も勢いのある選手と言っていい。キックボクシングイベントKNOCK OUTのベルトも持つ。
「ボクシングはそんなに簡単に習得できるものじゃない。私がボクシングを勉強させてあげよう」
会見で余裕のコメントを残したパッキャオ。一方の鈴木も「やることは一つ。勝たなきゃダメじゃないですか」と倒す気満々だ。
「ボクサーのパンチはパッキャオには当たらない。でもMMAファイターのパンチは当たる。MMAファイターのパンチを学んでもらおうと思います」
鈴木はそう語った。鈴木の勝機、この闘いの勝負論は、まさにそこにあるだろう。MMAとボクシングの違いだ。
パンチの技術でいえば、もちろんボクシングが最高峰だ。ましてボクシングで勝負しても、その世界のレジェンドであるパッキャオに勝てる者はそういない。
だがMMAのパンチはボクシングとは違う。軌道やタイミングなど、ボクシングのセオリーにはないものだからこそ当たる可能性がある。以前、ある立ち技の選手がMMAファイターの打撃についてこう言っていた。
「専門家に比べたらヘタなのかもしれない。でも、ヘタだからやりにくいということもあるんです」
パッキャオのRIZIN参戦合意からマッチメイク決定までに時間がかかったのは、相応しい相手がなかなか見つからなかったからだという。逆に言えば、鈴木千裕はRIZINが時間をかけて、自信をもって選んだ“パッキャオへの刺客”ということになる。
パッキャオは、これはあくまでボクシングであり、鈴木の試合もMMAだから見ていないと言う。パッキャオに余裕があるのは確かだ。ただ、ナメているかというと、そうではないだろう。
鈴木戦に向けての練習について聞かれると「いつもと同じ準備をします。3ラウンドのファイトだけど、12ラウンド用の準備を」。
この一戦はフィリピンでの地上波生中継も決まっているという。大統領選にも出馬した人間が、母国の人間にナメた態度で金儲けをする姿を見せるわけにはいかないだろう。だからこその「エキシビションではなくファイト」なのではないか。
ボクシングでの世界戦も交渉中だというパッキャオ。45歳でどんな強さを見せるのか。格闘技の常識からすれば突飛だが、鈴木がすべてを破壊する可能性も含め、やはり興味がないと言ったら嘘になる。
取材・文●橋本宗洋