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子どもの貧困対策を、政策上の「一丁目一番地」ととらえる自治体がある。
東京都・足立区だ。次々と打ち出す先進的な施策が、話題を呼んでいる。
象徴的なのは、2023年度に創設された給付型奨学金制度。保護者の年収が800万円以下で高校の成績が優秀であるという条件の下、例えば私立大学の医学系へ進めば最大で約3600万円という破格の額を支給する。
同年には経済的な理由などで民間塾に通えない成績上位層の高校生のために、個別指導形式で難関大学進学を目指す無料学習塾「足立ミライゼミ」も始まった。
教育面に限らず、あらゆる施策が区の進める貧困対策計画にひもづく。
「他の自治体に先駆けてやってきた自負はある」
職員の1人は力を込める。突き抜けられる理由は何か。背景には、区が長年抱える課題が存在していた。
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「本丸に切り込む時期がきた」
15年1月、区の当初予算案記者会見。子どもの貧困対策に本腰を入れると宣言した近藤弥生(こんどうやよい)区長は、手始めに専門部署を立ち上げることを明らかにした。
当時、低所得世帯を対象とする就学援助の受給率は約35%で全国平均の2倍以上。18歳未満の生活保護受給者数も10数年前から約1.5倍に増えるなど、子どもを取り巻く状況は深刻だった。
長年、区が問題視してきた親から子への貧困の連鎖。そこには公営住宅の建設を積極的に受け入れ、低所得者層が転入しやすかった歴史的な背景もある。
「治安」「子どもの学力」「健康寿命の短さ」-。区の重要課題の解消へ向けた取り組みの根本には、世代間にわたる「貧困の連鎖」が深く関わっていた。
「貧困」も含めた四つの重要課題は、「スエットやジャージーで出歩く人が多い」「事件のニュースで足立の名前をよく聞く」など、区外からの固定化された負のイメージを生み出し、ともすれば地域の持続的発展を阻害するリスクになっていた。
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15年を対策の「元年」として策定されたのが、5カ年の子どもの貧困対策実施計画「未来へつなぐ あだちプロジェクト」だ。
ひとり親の就業支援や妊産婦への早期相談・支援体制の充実、学習支援や人との交流を図る居場所の設置-。既存・新規も含めた約80事業を貧困対策という視点で体系的に整理し、まとめた。
「活力ある未来に避けては通れない道」
計画書の冒頭に寄せた近藤区長のメッセージには、強い思いがにじむ。地域の衰退が進む中、未来を担う子どもの成長と自立を支えるための一歩目が踏み出された。