盗撮警官の逮捕は認知5カ月後…漏えい文書に内部情報含まれ、隠しきれなかった? 鹿児島県警は真っ向否定。複雑に絡み合う警官不祥事、真相はなお闇に包まれる

鹿児島県警不祥事の集中調査などが行われた県議会総務警察委員会=11日午後、県議会同委員会室

 「野川明輝本部長が県警職員の犯罪行為を隠蔽(いんぺい)しようとした」。国家公務員法(守秘義務)違反の疑いで逮捕、送検された前鹿児島県警部長の容疑者の男(60)が、県警トップを名指しで批判し注目を集めている。野川本部長は「隠蔽を意図した指示は一切ない」と否定し、双方の主張は真っ向から対立する。背景をひもとくと、相次ぐ県警不祥事が絡み合いながら一続きにつながる実態が浮かび上がる。

 容疑者は3月下旬まで、県警本部に五つある部の一つ「生活安全部」の部長を務めた。当時の階級は9段階のうち4番目に高い警視正。県警内に数人しかいない最高幹部だった。野川本部長の階級はさらに一つ上の警視長で、容疑者とは日常的に業務のやり取りがあったとみられる。

 関係者によると、容疑者は退職後間もなく「告発」した。昨年、男性警察官が市民の情報をまとめた「巡回連絡簿」を使い、携帯電話で性的なメッセージを女性に送ったとする非公表事案などを文書で訴えた。

 郵送先は面識のない札幌市の50代男性記者。警察問題を扱った著書があり「積極的に取材する」(容疑者)と見込んだためだ。しかし記者は「鹿児島県警に関する情報の確認は地理的に難しい」と判断。日ごろからつながりのある福岡市の60代男性記者へメールで文書を送った。

 福岡の記者が運営するウェブメディアは昨年秋以降、取材の過程で入手したという県警の文書「告訴・告発事件処理簿一覧表」の画像をウェブに掲載していた。100事件を超える捜査資料が流出した可能性が高いとして、県警は50人態勢の特別チームをつくり、捜査や調査を進めていた。

 県警は4月8日、「告訴・告発事件処理簿一覧表」の漏えい先とみて福岡の記者を家宅捜索。同日、地方公務員法(守秘義務)違反の疑いで巡査長を逮捕(同罪で起訴、懲戒免職処分)した。この捜索時点で、札幌の記者から送られてきた文書はパソコンに保存されていたため、捜査員も内容を確認したとみられる。福岡の記者は「(容疑者の)事件の発覚につながった可能性は否定できない」と話す。容疑者にとっては、文書が札幌から福岡へ送られ、別の事件の家宅捜索で見つかるのは想定外だったとみられる。

 この文書には枕崎署員が23年12月、女子トイレに侵入し、県内の30代女性を撮影した盗撮容疑事件も含まれていた。発生から間もなく認知したが、県警が性的姿態撮影処罰法違反(撮影)などの疑いで逮捕したのは今年5月13日だった。県警側は「(本田容疑者が漏らしたとされる)資料の流出が分かり、(盗撮事件を)隠せなくなったため捜査をしたという事実はない」と否定している。

 容疑者は5月31日に逮捕され、6月5日に鹿児島簡裁であった勾留理由開示手続きで本部長の隠蔽を指摘した。野川本部長は11日の県議会常任委員会で「県民に多大な不安を与え、深くおわびする」と謝罪した上で、隠蔽を否定。出席委員からは「説明責任が果たされていない」など厳しい意見が上がった。

 警察庁は県警へ必要な監察を行うとしており、真相解明が急がれる。

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