“究極のチーズケーキ”を作ったのはITベンチャー社長 独特ののうまみと食感を生み出せた理由

しっとり食感が大人気(提供写真)

ビースリー代表 田和充久さん(前編)

ここ数年、とろけるような口どけと深いコクが大人気のバスクチーズケーキ。そんな中、独自の製法で冷凍しても味わいを損なわない「熟成バスクチーズケーキ」が、ネット通販を中心に、じわじわと評判を呼んでいる。

一般的なバスクチーズケーキは常温で日持ちが短く、冷凍すると食感が損なわれやすい。ところがこの商品は、生菓子では珍しい「熟成」を行うことにより、冷凍して解凍しても、しっとりとろける食感と濃厚な味わいをキープ。賞味期限は冷凍状態で30日。いつでも自宅で本格的なバスクチーズケーキを楽しめる。

大々的な宣伝はせず、店舗も工場に併設した直売所のみ。しかし、最近の飲食店の人気のバロメーターとして注目されるグーグルマップの口コミ数は400件以上で、星の平均点は5点満点中4.9点と高い。

発売開始は2021年12月、クラウドファンディングで目標金額の2700%となる813万円の支援を獲得し、クラファンサイトの飲食店部門1位となった。

また、発売からわずか1年で、豪華クルーズ列車「ななつ星in九州」のお中元ギフトに採用、会員数150万人以上のケーキ専門サイトのアワードで銅賞を受賞、大手通販サイトの洋菓子部門で2500商品中売り上げ3位に輝くなど実績を残している。

作ったのは、パティシエでも料理人でもない、IT企業の社長、田和充久氏だ。田和氏によれば、熟成バスクチーズケーキの最大の特徴は、その名の通り「熟成」にある。通常、洋菓子作りでは熟成はご法度とされる。日持ちが悪くなるだけでなく、雑菌の繁殖を招きかねないためだ。

ところが同社では、専用の熟成機を使い、一定温度で24時間かけて、チーズケーキ生地を熟成。この過程で、タンパク質が分解されてアミノ酸になることで、うまみと甘みが引き出される。さらにこの生地をもう一度熟成させてうまみを増やす「2段熟成製法」を編み出した。

カギはクラウドファンディングと口コミ

「専門の分析機関に依頼して調べたところ、熟成によってグルタミン酸が1.8倍、粘性が8.3倍に増加していました。一方で水分量は0.69倍に減少。つまり熟成によって濃厚さやコク、うまみが増えることが証明されたのです」

もう一つのポイントが、小麦粉を一切使わないグルテンフリーであること。実は子供がアレルギー体質だからだ。グルテンフリーは小麦粉を入れなければそう認められるので、米粉などを入れる場合が多いが、田和氏はそれをしなかった。

「粉を入れると吸水率が上がり、ねっとりとしますが、粉っぽさが出てしまいます。しかし、粉を入れずにねっとり感を出すのは難しい。試行錯誤の末、熟成にたどり着いたのです」

安易に他の粉を使わなかったことが、結果的に一味違ううまみと食感を生み出したのだ。

しかし、パティシエでもない田和氏がなぜチーズケーキ作りに乗り出したのか。そこには、コロナ禍での苦闘の日々があった。=【後編】につづく

(取材・文=いからしひろき)

▽田和充久(たわ・みつひさ) 1970年、浜松市生まれ。ネット業界で8年勤務後に独立。2021年12月、1年以上の試行錯誤を経て開発した「熟成バスクチーズケーキ」をクラウドファンディングで発売し、達成率2700%となる813万円の支援を集める。その後、口コミで人気を集め大手通販サイトなどで記録的な売り上げを誇る。公式サイト<https://agingcheesecake.jp/>

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