町田対筑波大で怪我人続出...“フェアプレー”をどう捉えていくべきか。日本サッカーの命運を左右する重要なテーマだ

天皇杯2回戦で筑波大に敗れたFC町田ゼルビア・黒田剛監督の対戦相手への批判発言が尾を引いている。

この試合では町田の4選手が負傷し、途中からプレーを継続することができなくなった。黒田監督は、うち3人の故障が「全てレイトタックルによるもの」だと断じ、「足にいった危険なタックルをなかったこととして風化させていくことがサッカー界にとってどうなのか」と問題を提議した。

一方で黒田監督に指導の是非まで問われた筑波大の小井戸正亮監督は、3日後の関東大学リーグの試合後に報道陣に囲まれて話したそうである。

「たぶん私は日本で一番ビデオを見返したと思いますが、ラフプレーで3人も4人も負傷したということではないと判断しています。決してダーティなものやラフプレーを容認したり勧めたりしているわけではない。一生懸命にプレーした結果です」

こうして見解の異なる両監督のコメントがクローズアップされ、いつまでも大量の野次馬を引き込み、ネット上が騒々しいのは、主催者のJFAが傍観を貫いているからだ。

【画像】セルジオ越後、小野伸二、大久保嘉人、中村憲剛ら28名が厳選した「J歴代ベスト11」を一挙公開!
黒田監督の主張の正当性はともかく、この試合で看過し難い事故が連鎖したことは間違いない。被害に遭ったチームの監督が声を挙げ、批判された指揮官は誹謗中傷に晒された選手たちを守るために発言をしている。幕引きをするには、JFAが明確な指針を示す必要がある。

このレベルの試合になれば「日本サッカーの向上を具現化させる機能を持つ」マッチコミッサリーが派遣される。マッチコミッサリーは「審判員と試合中の出来事について検証し反省会を行ない、必要ならば各チームの監督等と試合中の出来事について討議し(中略)審判のコメントを集め、規律フェアプレー報告書にまとめる」責務を負う。

つまり報告書は、日本サッカー向上を目的に作成されるわけなので、当然開示されなければ意味がない。まして今回の一件は、いつになく世間の注目を集めている。

JFAが目ざすフェアプレーとはどういうものなのか。ファンも含めて一緒に考えていく格好の機会だ。まして黒田監督は事実上「レイトタックル」と指摘する行為が指導次第で止められるものだと主張しているのだから、技術委員会としても正否の見解は避けて通れないはずだ。

フェアプレーの捉え方は、各国ごとに文化と密接に関連し、大きく異なる。例えば正々堂々が根幹を成す英国圏では、相手やレフェリーを騙して利益を得る行為は完全否定される。だが対照的にラテン系の国々では、駆け引きに長けた狡い行為こそ賢さの証と解釈される傾向が強い。

日本は明らかに前者だと見る向きが多いかもしれない。実際、銅メダルを獲得した1968年のメキシコ五輪からフェアプレー賞の常連だったし、Jリーグが開幕すると多くの助っ人選手たちが「日本に足りないのはマリーシア(狡猾さ)」だと指摘した。

しかしそんな日本も、敢えて1点差負けを享受するために退屈なボール回しを続けたロシア・ワールドカップ(2018年)のポーランド戦に限らず、何度か全力で勝利を目ざさない戦略的な試合を行なっている。大局的にもどちらに進むのか、過渡期にさしかかっているのかもしれない。

一方でどんなスポーツも安全が担保されなければ普及は進まない。米国でアメリカンフットボールや野球は観る競技としては人気だが、中流以上の家庭では危険を理由に子供には勧めないという話を聞いたことがある。

サッカーも多くの犠牲を教訓に、選手たちの安全保持の方向へとルールが改正されてきた。かつて故障をしても一切交代が出来なかった競技が今では5人交代制に変わり、ディエゴ・マラドーナやマルコ・ファンバステンら、多くのファンを魅了するスターが傷ついた悔恨から蛮行への罰則が強化され、最近はVARの導入により肝要なシーンで姑息な反則者が利益を得るのは難しくなった。

地球規模で見た場合、サッカーは観る競技としても実践する競技としても最も普及浸透している。それだけに日本で人気が低下すれば、世界に伍して戦うのは難しくなる。そういう意味でも、とりわけ育成段階でフェアプレーをどう捉え導いていくのかは、日本サッカーの未来の命運を左右する重要なテーマだ。

黒田監督も小井戸監督もJFAのライセンス取得者である。現場で指導方針等を巡り『卒業生』同士の見解が分かれているなら、師には誤りを正し、理想の道標を示す義務がある。

取材・文●加部究(スポーツライター)

【記事】「SNSを見ても町田が出てくるんで…」バスケス・バイロンが天皇杯敗戦後の“厳しい声”に思い。「選手みんなで話もしました」

【記事】「選手はどうサボりながら勝つかを考えちゃう」内田篤人が“夏のJリーグ”について持論「正直、欧州と逆のことをやっている」

【PHOTO】編集部が厳選! ゲームを彩るJクラブのチアリーダーを一挙紹介!

© 日本スポーツ企画出版社