週末の5月10日夕。
帰宅する学生や飲食店へと繰り出す大人が行き交う宇都宮市中心部のアーケード商店街、オリオン通り。通りに面するビル3階の下野新聞社まちなか支局には、「おいしい!」と焼きそばを頬張る子どもたちの声が響いた。子ども食堂「ほうぷけん」のオープンだ。
食堂は、大型企画「希望って何ですか」を連載する取材班自ら運営している。
子どもは無料、大人200円という低料金のため材料費は極力抑えたい。メンバーは複数のスーパーに分かれ「こっちの方が安いよ」と連絡を取りながら食材を購入。同僚からの野菜の寄付にも助けられている。
保険の手続きなどに手間取り、開催の決定は2日前。最小限の告知にもかかわらず、6組14人と想定外に多い親子連れが訪れた。
3歳の娘と来た母親は「ワンオペ育児で子どもと2人でのご飯が寂しいんです」と話した。潜在的なニーズを感じた。
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佐野市内で1月下旬、子ども食堂を初めて利用したという3児の母親に話を聞いた。興味はあったものの、親戚から「貧乏な人が行く所でしょ」と言われ、足を運べずにいたという。この日は「ファミリーレストランに行く」とうそをついて来ていた。
子ども食堂に「貧困家庭が利用する」というイメージを持つ人は少なくない。
「困っている人は来ているの?」。ほうぷけんを開いて以降、家族からも同僚からも尋ねられた。
必要とする子どもとその親に支援は届いているのか。開催しても、その場に支援対象とする親子がいないのであれば意味がないのではないか。質問からは無意識に抱いている疑問が透けて見える気がする。
もっともなこと。そう思う一方で、感じることがある。子ども食堂で楽しく食事している裕福そうな親子も、もしかしたら困難を抱えているのかもしれない。仮に困っていなくても、今後いつ、苦境に立たされるかは誰にも分からない。
困る前もつながる。そう考え、ほうぷけんは間口を広げて対象を「誰でも」としている。
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初開催から3週間後の5月31日、2回目を迎えた。前回よりも多い人数が来たら手が回らないと思い、あえて周知は控えめにした。
ふたを開けてみれば親子の来場はたった一組。子どもの数よりも圧倒的に大人の方が多く、さながら「大人食堂」の様相を呈した。
甘かった―。
正直落ち込んだ。でも会場には、社員有志のほか地域の大人たちが来てくれていた。
あらためて子ども食堂を開く意義について考えた。
一組の親子でも、地域の大人ばかりでも、今回来てくれた人が今後、それぞれの生活圏で支援を必要とする子どもにつながることがあるかもしれない。
続ける意味はある、と思えた。