【タイ】アマタがベトナムの魅力訴求[建設] タイと相互補完、投資誘致へ

投資先としてのベトナムの魅力について話すソムハタイCEO(左から3人目)=24日、タイ・バンコク(NNA撮影)

タイの工業団地開発大手アマタ・コーポレーションがベトナムへの投資誘致に力を入れている。グループ会社のアマタVNは24日、タイの首都バンコクで記者会見を開き、日系や地元メディアに向けに投資先としてのベトナムの魅力を訴えた。インフラやサプライチェーン(供給網)は整っているものの、人件費の急騰が懸念材料となっているタイの弱みを補完。米中対立など地政学的なリスクが高まる中、日系企業などの「チャイナプラスワン」による需要を取り込んでいく。

ベトナム国家銀行(中央銀行)のグエン・ティ・ホン総裁によると、2024年の同国の実質国内総生産(GDP)成長率は政府目標の6~6.5%を達成できるとの見通しだ。

海外直接投資(FDI)の流入も続いている。ベトナム計画投資省の外国投資局(FIA)によると、24年1~5月(20日まで)のFDIの認可額は前年同期比2.0%増となっており、通年では少なくとも前年比32%増の366億763万米ドル(約5兆8,542億円)だった23年並みとなる見通しだ。

アマタVNのソムハタイ・パーニットチーワー最高経営責任者(CEO)は、今後ベトナムへの投資が増えそうな分野としてエレクトロニクスや半導体、自動車部品を挙げた。半導体は、米国が調達先を多様化する中、東南アジア各国は付加価値の高い上流工程への進出を狙おうとしている。

ソムハタイCEOは「ベトナムは半導体製造に不可欠なレアアースが豊富にあるだけでなく、米国からの支援も得やすい。今後も米中対立が継続する場合、ファウンドリー(半導体の受託製造)最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が新たな製造拠点を設けるとすれば、ベトナムが最初の候補地になるだろう」とも述べた。

■「丸紅は最高のパートナー」

アマタVNは現在、ベトナムで◇ビエンホア(南部ドンナイ省)◇ロンタイン(ドンナイ省)◇クアンチ(中部クアンチ省)◇ハロン(北部クアニン省)——の4工業団地に運営や経営参画をしている。昨年は373ライ(約60ヘクタール)の土地を引き渡した。今年は550~625ライの引き渡しを目指しており、全体の収益も前年比15~20%増を見込む。

南部にある2カ所の工業団地は商都ホーチミン市という大消費地に近く、物流ハブに最適だ。中部の工業団地は安価な労働力を武器に、労働集約型産業の拠点に適している。さらに、ベトナムからミャンマーまでを結ぶ東西経済回廊の出発地点でもある。

一方、北部のハロン工業団地は中国華南地区とのアクセスが良く、人件費も南部の約半分の水準。日系企業によるチャイナプラスワンの動きの受け皿になりやすい。

アマタシティ・ハロンの様子(丸紅提供)

丸紅はこのほど、ハロン工業団地を開発・運営するアマタシティ・ハロン社の株式をアマタVNから20%取得した。丸紅の工業団地開発・運営事業ではベトナムは6カ国・7カ所目。ソムハタイCEOは丸紅を「最高のパートナー」と呼び、「丸紅のこれまでの実績や知見を高く評価している」と期待を寄せる。

丸紅は21年4月にアマタシティ・ハロンと販売代理契約を結び、企業誘致の支援などを行っていた。株式取得により、工業団地の開発・運営に直接関わり、環境負荷低減やデジタル化の取り組みを推進していく考えだ。

■「タイでも、ベトナムでも」

アジア太平洋地域に進出する日系企業の駐在員らを対象にNNAが16年から毎年実施している「アジアで最も有望な投資先」に関するアンケートでも、ベトナムは23年まで8年連続で1位を記録した。

2024年は2位となりインドに1位の座を明け渡したものの、「労働コストが安い」、「生産拠点として有望」の2点を理由に挙げた回答者の比率はインドを上回るなど、まだまだ投資先としての魅力は顕在だ。

NNAアンケートではベトナムに大きな差を付けられているタイだが、充実したインフラや整ったサプライチェーンは高騰する人件費を補って余りある強みだ。23年のFDIの新規申請額が72%増の6,632億バーツ(約2兆8,813億円)と急拡大。中国からタイに製造拠点を移す中国・台湾系のプリント基板(PCB)メーカーの動きが目立った。

アマタグループ全体の23年の純利益は18億8,500万バーツと、タイ業界トップのWHAコーポレーション(44億2,600万バーツ)の4割程度にとどまる。

ただ、WHAのベトナム進出は17年と遅く、現在運営している工業団地は北中部ゲアン省にある「WHAインダストリアルパーク」1カ所のみ。今後追加投資を通じて計4カ所まで拡大する計画だ。

「タイでも、ベトナムでも」(アマタ関係者)というアマタの戦略。ベトナムでの先行者利益を生かせるかどうか、次の一手に注目が集まりそうだ。

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