ラーメン業界から悲鳴…「円安から抜け出すには」解決策の鍵は《コスト削減》から《人・研究・設備への投資》

外国為替市場で円安が続く中、その影響は消費者や飲食業界に深刻な打撃を与えています。特に原材料の輸入価格が上昇し、物価上昇を招く「円安値上げ」は無視できない問題です。長崎の人気ラーメン店は「仕入れ価格が上昇し経営が厳しい」と話します。《円安傾向》からの脱出の鍵となるのは?

【住吉光アナウンサー(以下:住)】長崎の暮らし経済ウイークリーオピニオン。平家達史NBC論説委員(以下:平)とお伝えします。

【平】今回のテーマは「円安から抜け出すには」です。外国為替市場で円安・ドル高に歯止めがかかりません。

【住】円安は原材料の輸入価格を押し上げ、物価上昇を招く一因になっていますよね。

【平】円安は《輸出企業》にとってはプラスですが、《輸入企業》や、輸入価格が上がるという意味で《消費者》にとっては厳しいです。

さらに拡大する?《円安値上げ》

帝国データバンクによる食品の値上げに関する調査では、今年10月までに値上げが予定されている品目のうち、およそ3割が円安を値上げ要因としているんです。
これは、1年前と比べるとおよそ3倍に拡大しています。この《円安値上げ》は今年の後半にかけてさらに拡大する可能性が指摘されています。

【住】輸入食材に頼る飲食店にとってはコスト増は大打撃ですよね。
【平】幅広い種類の原材料費が上昇し、輸送費や光熱費にも円安は影響するため、飲食業界は特に店舗運営に関するあらゆるコストが上昇している状況です。
その中でも特に打撃を受けていると言われるのがラーメン店です。

東京商工リサーチの調べでは、昨年度に倒産したラーメン店は、前年の2.7倍に増加し、過去最多だった2013年度と比べても1.5倍になっています。
ラーメンの材料となる小麦や肉、油などは輸入しているものが多く、スープも長時間炊くので光熱費はかなりの額です。長崎のラーメン店を取材しました。

長崎市を中心に4店舗を構える「麺也オールウェイズ」円安の影響を聞くと──

麺也オールウェイズ本店 濱和樹店長:
「ラーメンにおいて重要な小麦だったり油だったり、そういうのも高騰でラーメン業界においても本当に厳しいものなのかなと思っております」

希少品種の小麦を使った自家製麺。

豚骨を18時間以上強火で炊くスープ。そして肩ロースをじっくり煮込み作られるチャーシューなどがこの店の特徴です。仕入れ値は去年の同じ時期と比べて《5パーセントほど》上がっていると言います。

価格転嫁しないとやっていけない

濱店長:
「まあ金額にすると(月に)20万円ほど上がってますので(4店舗分を)トータルすると恐ろしい金額になってきてるっていう…どうにかこうにかやってるっていう現状ですね」

コストが増えた分を仕入れ商品の変更などで調整してきましたが、価格転嫁に踏み切らざるを得なくなっています。

濱店長:
「このような現状が回復しない状態になってしまうとオールウェイズとしても値上げという形をとらざるを得ない環境になってくるのかなと思っております」

【住】企業努力でコストダウンを図るのにも限界があるでしょうから、業界としては過度な円安の是正が待たれるところでしょうね。

【平】為替は、一般的に国内金利と外国金利との差が影響しますので、円安を是正するためには《内外金利差》つまり『海外の金利水準と国内の金利水準の差を縮めれば良い』つまり『日本の金利を引き上げるべき』という声が聞かれます。
ただ、今の経済環境で金利を大幅に上げることができるのかという問題があります。

今、日本の実質賃金は過去最長となる《25か月連続》のマイナスです。利上げで借入の金利が上がると企業業績への追い打ちになりますし、住宅ローン金利が上がると住宅投資にもマイナスの影響があります。日本の金利を引き上げるためには、日本経済がしっかりしなければならないのではないかと思います。

《設備投資》よりも《財務体質強化》を優先した結果

【住】日本経済の実力は、海外と比べてどうなんでしょうか。
【平】実質実効為替レートの推移を見ると良く分かります。「実質実効為替レート」とは、貿易量や物価水準を基に算出された総合的な通貨の購買力を測る指標です。一般的には通貨の「実力」や「実質的な価値」などとも言われます。

1990年代をピークにトレンドとしては下がり続けています。指数でみると、ピークの3分の1程度まで下がっています。これは《円の購買力》つまり《日本の国力》が大きく落ちているということを示しています。
【住】急激な円安が進む前の2020年頃と比べても、3割くらい下がっていますね。

【平】経済が拡大していない状況では、金利を上げていくことは難しく、円安の修正は、米国などの金利の引き下げを待つという《他力本願》になってしまいます。
やはり、自国通貨を強くするためには、自国経済を強くする必要があるのですが、日本は去年、名目GDPがドイツに抜かれ世界4位に後退しました。

【住】なぜドイツは成長できたのでしょうか。
【平】官民の取り組みが功を奏し、工場の生産性が向上したのが一因との見方があります。その一方で日本は《生産性の向上》を行ってきたのかということですが、日本の設備投資は他国と比べると伸びていません。

伸び率が諸外国より低いことは政府も認識しています。これは、いわゆる「失われた30年」において、企業は《設備投資》よりも《財務体質強化》を優先していた感があるということです。

さらに研究開発費が伸びていないことも問題になっているんですが、そんな中でも研究開発の分野で県内に拠点を築く企業がいくつもあります。

攻めの姿勢で設備投資を行う元気企業も

東京のシステム開発会社であるシーエーシーは、これまでに長崎市内2か所に事業所を開設しています。長崎では養殖業の課題解決のためにAIを活用したスマート養殖の実現に向けた取り組みなども行っています。

4年前に静岡から長崎に進出してきた機械メーカーのオーカワラテックは、薬を作る機械を製造販売しています。更なる品質向上のため、造船で培かわれた金属加工に関するものなど、長崎の企業が持つ技術を求めて進出しました。

【住】円を強くするために《自国経済を強くする》という意味で、日本の《設備投資》を伸ばすことも大事だということでしたよね。

【平】攻めの姿勢で設備投資を行う元気な企業があります。

時津町にある岩永工業。創業からおよそ80年、国の内外でビルの柱や梁などを製造しています。効率化を進めて生産量を増やすため、去年新しい工場を町内に建てました。

未来構築には投資は必要不可欠

岩永工業 岩永洋尚社長:
「未来を構築していくためにはどうしても投資っていうのは必要不可欠というか必須条件になるかと思うんですよね。シェアを握りに行くにはそういった投資を進めていかないとどうしても競争力の低下につながるんじゃないかなという」

以前から稼働している本社工場は鉄骨を中心に製造しています。元々、工場には梁を作る加工場もありましたが、新工場を建てた際に、梁部門を丸ごと移動させました。

空いたスペースに鉄骨関係の部材などを仮置きできるようになったことなどにより、鉄骨を作る工場内の運搬などが効率化され、生産量は10%ほど上がったと言います。岩永工業では梁の製造機能を本社から新工場に移しました。

岩永工業 日並工場 西岡俊一 副工場長:
「こちらに移動したことによって(梁の)生産効率のアップにつながり、作業もスムーズに流れていくようになりました」

福岡で一斉にビルの建て替えが進む現場に製品を納めるなどしていることから、2つの工場は《フル稼働》の状態が続いています。

長崎駅をはじめ長崎署や駅周辺の外資系ホテル、そして長崎市役所にも岩永工業の鉄骨などが使われています。独自の付加価値をつけてきたことの成果でもあります。

岩永社長:
「結構、うちの会社って難しい物件やるの得意なんですよ。特に工場メンバーでも難しい加工の技術、組み立ての技術ってあるんですけど、それが来た時には喜んで研究してますもんね」

【住】研究開発、そして設備投資において世界に後れを取ったとはいえ、県内にもまだまだ製品作りに積極的な企業が多くあることを知り頼もしい気持ちになりますね。
【平】こういった取り組みが広がり、国全体の生産性を向上させること、つまり国力を向上させることが必要です。やはり、円安を自力で修正しようと思うなら、日本の国力を向上させなければならないと思います。

その方法として、これまでは《コスト削減》が中心でしたが、今後は付加価値を高めることを重視し、そのための《人への投資》《研究開発投資》《設備投資》に注力すべきだと思います。時間はかかりますが、日本全体の産官学が協働して、地道にこうした投資を続けなければ、円安傾向からの自力脱出は難しいかもしれません。

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