ひとつ屋根の下

 離れ離れだった6人きょうだいが一緒に暮らすことになった。一家の中心「あんちゃん」は江口洋介さん、次兄の「ちい兄ちゃん」は俳優デビューから間もない頃の福山雅治さん。「ひとつ屋根の下」は1993年の大ヒットドラマだ▲本県を7日未明から朝にかけて襲った台風10号。県内で742カ所の避難所に5万人を超える人が身を寄せた-との記事を読んで、あまり脈絡なく懐かしの名作のタイトルを連想した次第▲大半の自治体で満員状態の避難所が出た-とある。〈…近隣の避難所を案内したり、新たに開設したりして対応した〉。新聞記事になってみれば、ほんの数行の話だが▲避難所の玄関で「ここはもう満員ですから他へ」と受け入れを拒まれる状況は、想像するだけでも相当つらい。強風や大雨が迫る恐怖を前に、やむなく自宅を離れると決める判断の重さを思えばなおのこと▲避難所も「密」を避けねばならないコロナ禍の災害対策。ただ、前もって引いた「社会的距離」の線が現場の機転や柔軟さを一切失わせているとしたらやはり問題だ。「なんとまあ杓子(しゃくし)定規な」の非難は一方的に過ぎるとしても▲冒頭のドラマ、あんちゃんの決めぜりふは「そこに愛はあるのかい?」-。避難所の屋根の下にも、どうか愛を。台風の季節はまだ続く。(智)

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