「しま留学生」と火囲み交流 五島・久賀島の魅力を“噛みしめる” 【ルポ】

「冷たいね―」。子どもたちやお年寄りが火のそばに寄り合い、触れ合っていた=五島市久賀町

 9日昼すぎ、長崎新聞五島支局の電話が鳴った。「12日朝、芋と魚を焼くから来んか」。支局がある五島市福江島の隣の久賀島で、火を囲む行事があるらしい。知らない男性の少々ぶっきらぼうなお誘いに面食らいつつ、訪ねてみることにした。
 福江島から船で20分。12日午前9時半、久賀島の田ノ浦港に、電話をくれた男性(85)が車で迎えに来てくれた。「すみません、忙しかとこ」。マスクの上から、優しい目元がのぞいていた。
 旧久賀小校庭では既に火がたかれ、約30人が集まっていた。公民館長の江頭勝弥さん(74)によると、久賀小中の児童生徒と島民が触れ合う行事の一環。全児童生徒12人中11人を占める島外からの「しま留学生」たちに、島のことを知ってもらう目的もあるという。
 「250人くらいしか住んでいない島やけん、みんなで盛り上がれる行事が必要。若い人も少ないから誰でも協力するよ」。その言葉通り、島民らがサツマイモやカマスの干物、イノシシ肉などを持ち寄った。

次々と焼かれる魚やソーセージを頬張る子どもたち

 アルミホイルを巻いた芋が火に放り込まれ、魚を焼く匂いも漂い始めた。今春、家族を連れて久賀駐在所に赴任した警察官、末吉佳晃さん(34)はカマスを焼きながら、「いつも島の人たちが温かく子どもを見守ってくれる。来年小学校に入学する上の子は、みんなから『期待の星』と言われるんです」。長男の頭をなでてほほ笑んだ。
 お年寄りや子どもが入り交じり、輪ができた。魚を頬張る子どもたちに「まだあるぞ、食え食え」と声を掛ける江頭さん。いたずらっぽく「遠慮する人はもう来んでよかぞ」と言われた記者も、イノシシ汁のおかわりを味わった。
 留学制度で4月から同校に通う小学6年、狩野琉嘉君(12)は、以前暮らしていた群馬県よりも「楽しいというより、うれしい気持ち」。訳を尋ねると、「島の人みんなが関わってくれて、僕は1人じゃないと思えるから」だという。
 おなかいっぱいになった人たちが、火を囲んで学校の話やわが子の話を語り合い、ゆったりとした時間が流れた。人口減や少子高齢化が急速に進むこの島に、医療や交通など厳しい課題が山積みなのは確かだ。それでも狩野君が「1人じゃない」と言った意味は分かる気がした。「鬼ごっこしよー」。ふと目線を下げると、島の子に服を引っ張られていた。


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