【追う!マイ・カナガワ】歩行者の心得を探る(上) 歩道は右側通行、それとも左側? 正解は?

 歩道で高齢男性に「歩行者は右側を歩け」と注意され、「歩道にそんなルールあったの?」ともやもやしていたところ、神奈川新聞社の「追う! マイ・カナガワ」取材班にも、神奈川県平塚市の女性(75)から「歩行者の通行は右側か左側か」という疑問が寄せられた。若い頃に右側通行と習い、2人の息子にそう教えて育てたという女性は、右側を歩く友人が「奥さんが間違っている」と同世代の男性に指摘されたのを機に、2人で思い切って交番で質問してみた。しかし、警察官に「どんな道にも特に決まりはありませんよ」と言われ、迷ってしまったという。

◆おまわりさんも知らない知識

 33歳の記者は以前、江戸時代は刀がぶつからないよう左側通行だったと聞いたことがあった。しかし「車は左、人は右」と、どこかで聞いた気もする。実際はどちらが正解なのか。

 道路のことなら警察だろうと、県警に取材をしようとしたところ、県警記者クラブという業界の“壁”に阻まれた。内勤の編成部で紙面レイアウトを担当している整理記者の私は取材を許されなかった…。

 いきなりの赤信号! しかし、投稿を寄せた女性の「こんな疑問でも取材に取りかかってもらえてうれしい」という言葉に背中を押され、記者クラブに詰める県警サブキャップと連絡を取った。間接取材で、微妙なニュアンスが伝わるだろうかと心配したが、まったくの杞憂(きゆう)だった。

 交通実務六法や道路交通法解説といった分厚い法律書をどっさりと引っ張り出して、先輩記者の取材に丁寧に答えてくれたのは県警交通部交通総務課の男性警視2人だ。

 話をまとめると、歩行者の通行に関する規定は道交法10~15条にある。歩道に関しては規定がなく自由に歩行してよいが、歩道のない道路では次のように定められている。

 歩行者は、歩道又は歩行者の通行に十分な幅員を有する路側帯と車道の区別のない道路においては、道路の右側端に寄つて通行しなければならない。

 質問者の女性は、交番で間違った説明を受けたということ?

 警視2人は「詳しいことは警察学校でも習わないのが実情」と明かしてくれた。交番のおまわりさんでも知らないことはあるのだ。

◆罰金もあるの?

 では、道路の左側を歩いていたら捕まることもあるのか。県警の警視は、そんな疑問にも答えてくれた。

 「警察官の指示に従わずに右側通行しなかった者には、2万円以下の罰金などの罰則規定があるが適用された例は聞かない」

 また、わざわざ左側通行している人を止めて、事情を聴いて、右側通行を指示することも「現実にはそぐわない」とし、注意することも基本的にないそうだ。

 事故の際には過失認定されるのか。「左側を歩いていたことで、歩行者の過失がゼロではなくなるというだけ。大きな事故で裁判になったとき、運転手の量刑が気持ち下がるかなという程度のイメージ」。影響はあまりないようだ。

 何だかよく分からなくなってきた。なぜ、実際には取り締まらない右側通行という法律があるのだろう。そんな疑問をぶつけると、「推測になるが、制定当時は歩道が整備されていなかったものの、現在は整備が進み、歩行者の安全が守られるようになったからだろう」と解説してくれた。

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