東京五輪 熱気と興奮なき幕開け 長崎県内、交錯する期待と不安

店内には数組の客がいたが、テレビで東京五輪の開会式を見ていたのは1組だった=23日午後8時9分、長崎市のカフェオリンピック

 パンデミック(世界的大流行)という苦難の中、半世紀ぶりに東京の聖火台に火がともる。新型コロナウイルスで1年延期された夏季五輪が23日夜、国立競技場で開幕した。命のリスクは拭えず、市民から「素直に楽しめない」との声が上がる。「プレーで前向きになってほしい」。マスク姿の日本選手団が笑顔で手を振るが、無観客のスタンドは静かなまま。開会式のキーパーソンのスキャンダルも重なり、前回大会のような熱気と興奮は感じられない。かつてない17日間が始まった。

 医療従事者は「中止を」と訴え、聖火ランナーを務めた若者は「今こそ感動と希望を」と期待を込めた。盛り上がりを当て込んだ飲食店は閑散としていた-。新型コロナウイルス感染拡大下で始まった「平和の祭典」。東京五輪開会式があった23日夜、県内では不安と期待、落胆といったさまざまな感情が入り交じった。
 午後8時すぎ、長崎市浜町の「カフェオリンピック」には5組ほどの客がいたが、テレビ画面に目を向けたのは1組だけだった。1964年東京五輪の前年に開いた「レストランオリンピック」が前身の同店。約半世紀ぶりの開催をオリジナルメニューで盛り上げたかったが断念したという。マネジャーの田苗稔博さん(62)は「歓迎ムードとは程遠い情勢。反発があるかもしれないから」と残念そうに話した。
 佐世保市下京町のスポーツバー「ドリーマー」も外国人客がちらほら、日本人客はまばら。代表の地頭薗哲郎さん(61)は、約250人が詰め掛けた2018年サッカー・ワールドカップ(W杯)時を懐かしみ、「もっと日本人に来てほしかった」と肩を落とした。
 開閉会式の演出担当者の解任など直前まで混乱が続き、同市内のタクシー運転手の男性(70)は「ジタバタしている」とあきれた様子。それでも開会式を車載テレビで見ながら「五輪自体は素直に楽しみたい」と話した。
 「命が切迫している状況。今でも中止すべきだと思う」。長崎市の看護師、赤島友美さん(51)は危機感を募らせる。五輪関係のコロナ感染者は100人を超え、都内の1日当たり感染者数は千人を上回っている。県内でも増加傾向がみられ「感染拡大は目に見えている」。五輪をテレビ観戦するかと記者に問われると「そんな気持ちになれない」と厳しい表情を浮かべた。
 一方「コロナ禍だからこそ」期待を膨らませる市民も。5月に聖火ランナーで五島市内を走った長崎市の大学生、山口雪乃さん(18)は自宅のテレビで開会式を見て「壁を乗り越えて今があると希望を感じた。いよいよ始まる。選手の活躍、感動と喜びを楽しみにしている」と声を弾ませた。元高校生平和大使でもあり「日本での開催で被爆地長崎、広島が少しでも意識されるきっかけになれば」と期待を寄せた。

 


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