【競泳】金メダル1号・大橋悠依は人魚姫だ! 岩崎恭子氏が挙げる“2つの勝因”

日本勢競泳金メダル1号となった大橋

ついに主役の座を勝ち取った。競泳女子400メートル個人メドレー決勝(25日、東京アクアティクスセンター)で、大橋悠依(25=イトマン東進)が4分32秒08の好タイムで金メダルを獲得。日本人で初めて同種目の頂点に立った。昨年以降、ケガなどで不調が続き、周囲からは不安の声が上がっていたが、なぜ大舞台で圧巻の泳ぎを披露できたのか? 1992年バルセロナ五輪女子200メートル平泳ぎ金メダルの岩崎恭子氏は“2つの勝因”を挙げた。

トビウオジャパンの“金1号”は遅咲きのヒロインだった。24日の予選は3位で通過し、この日の決勝を迎えた。前半を2位で折り返すと、3種目目の平泳ぎで首位に浮上。体1つ分の差を付けると、最後の自由形でもリードを守り切った。想像以上の結果に「正直まだ信じられない気持ちでいっぱいです」と声を震わせた。

勝利のカギは平泳ぎだった。大きなストロークが特長の大橋は背泳ぎを得意とする一方で、平泳ぎは苦手種目としていた。それでも、日本代表の平井伯昌ヘッドコーチと二人三脚で改善。決勝では「平泳ぎが朝も感覚が良かったので、背泳ぎでターンしたところからが勝負で、そこからギアを上げていく」と勝負どころを見定めた。岩崎氏も「個人メドレーはいかに不得意な泳ぎを少なくしていくかというところが大事。その中で課題だった平泳ぎの部分がすごく良かった。平泳ぎで他の選手を引き離していましたし、本当に良かったんじゃないかなと思います」と絶賛した。

何度も壁にぶつかってきた。東海大学水泳部監督で、2016年リオ五輪女子200メートル平泳ぎ金メダルの金藤理絵氏を育てた加藤健志氏が「水をとらえる感覚が優れている。例えると魚のように水をとらえられる。水と全くケンカしないんですよね」と話すように、兼ね備えたセンスは超一流だ。ただ、昨年12月の日本選手権は体調不良で欠場。五輪代表選考会を兼ねた4月の日本選手権は左股関節痛の影響で、痛み止めを飲みながらの出場を余儀なくされるなど、なかなか心技体がかみ合わない時期が続いた。

一人でいると暗い気持ちになってしまう――。そんなときに支えてくれたのが、リオ五輪400メートル個人メドレー8位入賞の清水咲子氏だ。泣き虫の大橋が涙を流した際には、何度も励ましの言葉を送ってくれた。決勝前日(24日)も清水氏から「すごくいいレースをしていたから、思い切っていけば自分が見たい景色はついてくると思うから」とエールが届いたという。

岩崎氏も「一緒に五輪は行けなかったけれど『咲子の分も』っていう気持ちではいたと思います。咲子はとても明るいし、前向きなので、そういうところが自分にも必要だと感じたのでは」。清水氏の“人間力”が瀬戸際にいた大橋を救ってくれたという。

だからこそ、自然と感謝の言葉があふれ出た。「さっこさん(清水氏)の分までというのは、最後、頭が真っ白で緊張して忘れていたんですけど、本当に一番そばで支えてくれた人なので、さっこさんと一緒に取ったメダルだなと思います」。初めて日本代表に選出されたのは、東洋大4年時の17年。決してエリート街道を歩んできたわけではないが、愚直な姿勢を貫いてきた大橋に、神様が最高のプレゼントを届けた。

© 株式会社東京スポーツ新聞社