MotoGP第11戦オーストリアGP:強まる雨、マシン乗り替え…混乱のレースをKTMのビンダーが制す

 MotoGP第11戦オーストリアGPの決勝レースがレッドブルリンクで行われ、MotoGPクラスはブラッド・ビンダー(レッドブル・KTM・ファクトリーレーシング)が優勝。レース中に雨脚が強まるなか、スリックタイヤで走り切った。中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)は非常に難しいコンディションをスリックタイヤで完走し、13位でフィニッシュしている。

 決勝レースが始まる直前にはわずかに雨が落ち始めたが、路面を濡らすほどではなく、グリッド上に並んだすべてのライダーは、スリックタイヤを装着していた。好スタートを切ったのはポールポジションスタートのホルヘ・マルティン(プラマック・レーシング)で、ファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)が1コーナーでコースアウトする間に、3番グリッドスタートのフランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)が2番手に浮上する。

 そして、1周目で早くも白旗が提示。レース中に白旗が提示された場合、スリックタイヤからレインタイヤを履いたマシン、またはその逆のマシンに乗り換えが可能となる。しかし、ライダーはマシン乗り替えのためにピットインすることなく、レースはそのまま進んでいく。1周目でバニャイアがマルティンを交わしてトップに浮上。2周目に入ると、さらにヨハン・ザルコ(プラマック・レーシング)、マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)が相次いでマルティンを交わす。

 3周目を終えて、トップはバニャイア、2番手にはマルク・マルケスが浮上し、3番手にザルコが続く。マルティンは4番手に後退した。その後方には、1周目の6コーナーでマルティンと軽く接触し、後退した5番手のファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)、6番手のジャック・ミラー(ドゥカティ・レノボ・チーム)、7番手のジョアン・ミル(チーム・スズキ・エクスター)などが続く。

 4周目、3番手に浮上したマルティンが4コーナーでマルク・マルケスをオーバーテイク。2番手にポジションを上げた。トップのバニャイア、2番手のマルティン、3番手のマルク・マルケスがワンパックとなってレースをけん引。5周目にはマルティンとマルク・マルケスが何度もオーバーテイクを繰り返し、激しいポジション争いを展開する。

 7周目にはポジションを回復していたクアルタラロがマルティンを交わし、さらに3コーナーのブレーキングでマルク・マルケスをオーバーテイク。クアルタラロはトップのバニャイアを追う。クアルタラロはバニャイアに迫ると、オーバーテイク。しかしバニャイアもクアルタラロから離されることなく、メインストレートの加速で再びトップを奪い返す。

 トップは再びバニャイア。11周目に入るころにはほんのわずかに2番手のクアルタラロとの差を広げていた。その2番手のクアルタラロは3番手のマルク・マルケスと僅差。さらにその後方にはマルティン、ザルコが続くが、次第にトップ3が後方との差を広げ始め、レースはこう着状態となった。

 18周目、5番手を走行中だったザルコが転倒。チャンピオンシップのランキング2番手がここでリタイアとなった。

 残り9周、マルク・マルケスが1コーナーで2番手のクアルタラロにオーバーテイクを仕掛ける。ブレーキングでインに入ったマルク・マルケスがクアルタラロを交わそうとすると、クアルタラロはオーバーラン。大きくはらんだことで、マルク・マルケスのオーバーテイクを許した。これにより、マルク・マルケスは2番手に浮上し、クアルタラロは3番手に後退する。

 トップのバニャイアと2番手のマルク・マルケスとの差は0.1秒ほどになった。マルク・マルケスは残り7周でバニャイアにオーバーテイクを仕掛ける。しかしバニャイアがトップを奪い返す。ふたりの差はほとんどない、テール・トゥ・ノーズのトップ争いとなった。

 雨が次第に量を増していたようで、レース中には雨が降ってきたことを知らせるレッドクロスのフラッグが振られていたことが確認できる。こうしたなか、残り5周でミラーとアレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)がマシン乗り替えの決断を下す。このふたりがいち早くピットインしてマシンを乗り替えると、再びレースに加わった。

 雨によってコンディションが変わっていったことで、トップ集団は大混戦となる。トップを奪ったマルク・マルケス、その後ろにはクアルタラロ、バニャイア、マルティン、ブラッド・ビンダー(レッドブル・KTM・ファクトリーレーシング)などが集団となって続く。

 そして残り3周、レース展開は混乱を極めた。トップ集団のマルク・マルケスとバニャイア、マルティン、クアルタラロ、ジョアン・ミル(チーム・スズキ・エクスター)がマシン乗り替えのためにピットイン。一方、ビンダーは続行を決断。ビンダーがトップ、アレイシ・エスパルガロ(アプリリア・レーシング・チーム・グレシーニ)が2番手、そしてバレンティーノ・ロッシ(ペトロナス・ヤマハSRT)が3番手に浮上する。

 残り周回数はほとんどない。上位を走るライダーはスリックタイヤでレースを続ける。レインタイヤに履き替えたライダーは、10番手のマルティンが最上位という状況だった。残り2周では、レインタイヤのマルク・マルケスが1コーナーでクラッシュを喫する。

 雨はどんどん強くなっていった。しかしビンダーはスリックタイヤのまま、独走で最終ラップに入った。スリックタイヤを履いたライダーとレインタイヤを履いたライダーが混走するなか、最終ラップでレインタイヤを履いたバニャイアとマルティンがスリックタイヤを履いたライダーたちを交わしていく。

 ビンダーはスリックタイヤで走り切り、大混乱のレースを制して今季初優勝。KTMのホームグランプリでの優勝となった。レース後、5度のトラックリミットを超えた走行があったとして、ビンダーに最終結果に3秒加算のペナルティが科されたが、2位のバニャイアに対し12秒以上の差をつけたゴールだったため、最終結果は変わらなかった。2位はバニャイア、3位はマルティンで、最終ラップでスリックタイヤ勢を交わしての表彰台獲得だった。

 4位はミル、5位はルーキーのルカ・マリーニ(スカイ・VR46・アビンティア)で、マリーニは自己ベストリザルトを獲得。クアルタラロはレインタイヤに変更して7位、ロッシはスリックタイヤのまま8位でフィニッシュして、今季の自己ベストリザルトを獲得している。

 中上はスリックタイヤのままレースを走り切り、13位。マシン乗り換え後に転倒したマルク・マルケスは、レースに復帰して15位だった。レースの終盤に強まった雨が、大きなドラマを生んだ第11戦オーストリアGPとなった。

 また、Moto2クラスの決勝レースでは、今季からステップアップしたルーキー、小椋藍(IDEMITSU Honda Team Asia)が2位フィニッシュ。クラス初の表彰台を獲得している。

2021年MotoGP第11戦オーストリアGP:ブラッド・ビンダー(レッドブルKTMファクトリー・レーシング)
2021年MotoGP第11戦オーストリアGP:ブラッド・ビンダー(レッドブルKTMファクトリー・レーシング)
2021年MotoGP第11戦オーストリアGP マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)
2021年MotoGP第11戦オーストリアGP マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)
2021年MotoGP第11戦オーストリアGP ファビオ・クアルタラロ、バレンティーノ・ロッシ
2021年MotoGP第11戦オーストリアGP ファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)

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