二三雲

 「…画用紙には表とウラがあるんです。私にもありますが」「もう前期高齢者なので、手が震えちゃって」「普段ならこの辺でタバコを1本」…軽妙な解説を交えながら、下絵の描かれたB4判の画用紙の上で絵筆が躍る▲五島出身のアニメーション美術監督・山本二三さん。県美術館で9月5日まで開催中の作品展「山本二三展 the BEST」に合わせて、仕事机をホールの舞台に用意し、実際に絵を描いてもらう「ライブ・ペインティング」が先週、長崎市内で披露された▲空の青、雲の影を描く青、水平線はまた少し違う青。着色が進むにつれ、音のないはずの絵から波の音や風の音が聞こえてくる。ふわりと白い雲が明るく輝いて、五島の夏、五島の海が画面に広がる▲ライフワークの「五島百景」をこのほど完成させた。10年に及んだ制作期間は、ふるさとの美しさや温かさを再発見する機会になったと話す。「もっと早く描けばよかった。反省してます」…本県出身のタレント、長濱ねるさんとのトークショーの様子は20日付の特集で▲窓の外はきょうも強い雨だ。時季外れの前線が行き場をなくして何日も居座り、灰色の分厚い雲が空を覆う▲天気には勝てない。神経の休まらない日々がしばらく続く。優しく浮かぶ「二三雲」の夏空が恋しい。(智)

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