【新宿ゴールデン街交友録 裏50年史】ひばりとフォークの神様 奇跡の“流し”アカペラ

ゴールデン街の路上でご機嫌な(左から)美空ひばりさん、岡林信康、ひばりの母・喜美枝さん

新宿ゴールデン街伝説。あの美空ひばりがゴールデン街のお店でアカペラで唄った!?

これはその美空ひばり(1989年没、享年52)をゴールデン街に連れて行った黒田征太郎(イラストレーター)から聞いた話だ。フォークシンガー・岡林信康が75年に開いた中野サンプラザのコンサートにひばりが飛び入り出演して「風の流れに」を唄った“事件”は有名な話だ(その音源も発見されている)。

その岡林、ひばりを繋いだのが黒田だ。そしてその前後頃か…黒田、長友啓典(グラフィックデザイナー/黒田と一緒に「K2」経営)らとゴールデン街に繰り出し、呑んだ時の顛末を聞いたのがこちらの話だ!

黒さんがひばりさんを「プーサン」に連れて行った時の事。酒がはいるにつれ上機嫌になったひばりさん。「今日は気分がいいから唄うわよ!」と言い出し、お客さんのリクエストに応え「浪曲子守唄」をアカペラで3番迄唄い上げたという。

「私、子供がいないけど弟の子供、和也(現ひばりプロダクション社長)を育てているから、親の気持ちは分かるわよ!」とも語っていたとか。その時のゴールデン街を歩くひばり親子(母親・加藤喜美枝さん)と岡林との写真が残されている。

藤圭子もデビュー前、ゴールデン街や歌舞伎町を「流し」で歩いていた。テレビプロデューサーの小澤俊夫が書いている。

<「小茶」で呑んでたら、デビュー前の藤圭子が白いギターを抱えて「歌ってもいいですか」と言って歌ったのが「星の流れに」。僕が深夜映画を見るために頼んでおいた特大おにぎりと千円札を彼女に渡し、オバチャンが「頑張ってね」言うと、彼女はぺこりと頭を下げてゴールデン街の方に立ち去った>

お隣の花園神社の境内には芸能浅間(せんげん)神社という祠があり、藤圭子の「圭子の夢は夜ひらく」の歌碑がある。今も夢を追う多くの若者が訪れている。

ちあきなおみがレコードのジャケット撮影で使った店はゴールデン街G2通りの「桂」(現・夜間飛行)だ。この街から多くの歌、詩、文学、映画…そう「物語」が産まれている。その伝統は守らなければ…と誓う今日この頃である。(敬称略)

◆外波山文明(とばやま・ぶんめい)1947年1月11日生まれ。役者として演劇、テレビ、映画、CMなどで活躍。劇団椿組主宰。新宿ゴールデン街商店街振興組合組合長。バー「クラクラ」オーナー。

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