コロナ禍に自作曲で”人間の力”訴え 筋ジストロフィー患者 福田隆次さん

作曲作業などはベッドの上に設置されたパソコンを使って行っている福田さん

 体の筋力が徐々に低下する難病「筋ジストロフィー」を患い、長崎県東彼川棚町の長崎川棚医療センターに入院している福田隆次(たかつぎ)さん(37)。ほぼ寝たきりの生活を送りながらパソコンを使った作詞・作曲に取り組んできた中で、新型コロナウイルス禍をテーマにした曲を作った。「いつかコロナは収束する。人間のパワーはこんなものじゃないと世界へ訴えたい」。多くの人に曲を届けたいと、長崎のミュージシャンに演奏してもらうことを望んでいる。

 「声が出せない自分の代わりに自作曲を歌わせたい。音声合成ソフト『ボーカロイド(ボカロ)』について教えてほしい」。7月、趣味で音楽活動をしている記者の元に、以前取材で知り合った福田さんからこんなメールと楽譜が届いた。
 曲のタイトルは「POSITIVE POWER(ポジティブ・パワー)」。コロナ禍に対し感じたことを表現するために昨年作詞・作曲し、病気がまん延する困難な時代でも希望を持って生きる恋人たちの絆を描いた。「さいあくなとき/ふたりのきせきがあればいいことがおきるさ」という歌詞に、人生にいつも前向きでいたいという自らの思いを重ねたという。

◆病状が悪化

 福田さんは諫早市出身。小学6年で発症。少しずつ筋力が衰えていく中、音楽に興味を持つように。2006年にはインターネットの掲示板で知り合ったミュージシャンらと、アマチュアバンドを結成。ボーカルとして、佐世保市のライブハウスなどに出演した経験もある。
 しかし、病状は次第に悪化。病院のベッドでほぼ寝たきりとなり、09年には喉に人工呼吸器を装着。話すこともできなくなった中、パソコンによる作詞・作曲に挑戦。13年には障害者の詩にメロディーを付けるコンテスト「わたぼうしコンサートinながさき」に応募した「もっと明るく 生きていこう!~僕は筋ジストロフィーだ!!~」が大賞に輝いた。

入院中の福田隆次さん=長崎川棚医療センター

◆代理演奏を

 その後、障害者と健常者が音楽を通じて交流するサークルの立ち上げも企画。しかし、コロナ禍で病院の外部の人間との接触が制限され、サークル設立も進まない。「自力で曲を音源化したい」と編曲ができる専用ソフトやボーカロイドの使い方を学び始めた。
 一方で、自分の代わりにステージで演奏してくれるミュージシャンも探している。「音楽を通じて誰かと交流したいという気持ちはずっとある。他の人にとっても、自分の曲がそのきっかけになるとうれしい」
 趣味の音楽でいつか家族や周りの人たちに恩返しができれば-。今や福田さんの生きがいとなった音楽活動への思いはコロナ禍の中でますます強くなっている。


© 株式会社長崎新聞社