車いす積載装置助成 佐世保が全国初? 行政のあいまい文言 “誤解”招く

 長崎県佐世保市は、障害者がマイカーを運転できるようにする自動車改造費の助成制度を設け、社会参加を支援している。障害を抱える女性から「車いすを自家用車に積み込むクレーン装置が全国で初めて助成対象になった」との投稿が、長崎新聞の情報窓口「ナガサキポスト」に届いた。だが、市に聞くと「以前から対象ですよ」。なぜ、当事者が勘違いするの?-。取材を進めると制度の文言があいまいで、他県でも“誤解”を招いている可能性が見えてきた。

■「多くの人が助かる」


 制度の要綱には、身体障害者が、所有、運転する自動車の「操向装置(ハンドル)や駆動装置(アクセルとブレーキ)など」を改造する場合、市が最大10万円を助成すると記している。

 6月の市議会一般質問。この制度に注目した宮島武雄議員は「障害者が使う電動車いすは重量が30キロ以上ある。クレーン装置を対象にできないのか」とただし、市は「助成の対象となっている」と答弁した。

 このやりとりをインターネット中継で視聴した同市の藤村美来さん(52)は、クレーンが対象に加わったと思い込み、「多くの人が助かる」と喜んだ。

 藤村さん自身も30代半ばに難病の多発性硬化症を発症。下半身に力が入らず、歩行が難しい状況にある。

 自家用車のブレーキを手で操作できるよう改造し、通院や買い物に出掛けている。7年ほど前から電動車いすを使うようになり、持ち運びのためにクレーンの設置を検討。だが、福祉用具業者などから「全国的に助成対象は運転で使う装置だけ」と聞き、こつこつ貯金した約20万円を取り崩し、今年2月に中古のクレーンを備え付けた。

クレーン装置を使い電動車いすを自家用車に積み込む藤村さん=長崎県佐世保市(画像の一部を加工しています)

■『など』に含まれる


 一方、佐世保市は取材に「要綱は対象を『操向や駆動の装置など』と記しており、この『など』にクレーンは含まれる。問い合わせがあれば助成していた」と説明。宮島議員の指摘を受けて8月に要綱を改訂し、クレーンを意味する「車いす収納装置」を追記した。

 市によると、同様の制度は全国にもある。中核市を対象とした2019年度の調査では、57市のうち、56市で設けていたという。

 だが、要綱の対象にクレーンを示す文言を明記していたのは金沢市と前橋市のみ。多くの自治体が佐世保市と同様の対応をしている可能性がある。藤村さんの車を改造した佐賀県の業者も「クレーンが対象という認識は業界にない。行政は積極的に情報発信していないのでは」と疑問視する。

 制度の規定上、事前申請をせずに改造した場合は、助成金を受けられない。藤村さんは8月に別の運転装置を取り付け、助成金を限度額まで受けたため“損失”はないが、「自費でクレーンを設置した人はいるのではないか」と心配する。

 県身体障害者福祉協会連合会の土岐達志会長(73)は「障害者が運転するためにはさまざまな面で支援が必要で、助成対象を『など』でくくるのは不親切だ。行政は制度を見直し、しっかりと周知してほしい」と求めている。


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