投資信託はどれを選ぶかが大事、騰落率で運用の良し悪しは判断できない

投資信託には元本の保証がないし、利回りも確定ではありません。投資先であるマーケットの動向によって運用成績が左右され、かつ元本割れも起こります。それだけにどの投資信託を選ぶかが大事なのですが、運用成績だけで選ぶのは避けた方が無難です。


預貯金の利率と投資信託の騰落率はどこが違う?

投資信託の運用成績は「騰落率」という数字で示されます。一定期間中に基準価額がどの程度値上がりしたのか、あるいは値下がりしたのかを計算したものです。

たとえば2020年11月末時点の基準価額が1万2000円。2021年11月末の基準価額が1万4000円だとしたら、この投資信託の「過去1年間騰落率は16.66%」になります。

あるいは2020年11月末時点の基準価額が1万2000円で、2021年11月末の基準価額が9000円だったら、「過去1年間騰落率は▲25%」になります。預貯金の利率はすべてプラスですが、騰落率はまさにその字のとおり、値上がりの率だけでなく、下落した時の率でもあるのです。

また、預貯金の利率は「年利率」といって、その預貯金にお金を預けた場合の1年間の収益率を示していますが、騰落率はあくまでもその「期間中」の収益率です。

たとえば過去3カ月間の騰落率が10%という場合は、3カ月間で基準価額が10%上昇したことであり、過去10年間の騰落率が150%という場合は、10年間で基準価額が150%上昇したことを意味します。同じようにパーセンテージで表示される収益率ではありますが、預貯金の利率と投資信託の騰落率は、全く異なる考え方なのです。

基準日によって大きく変わる騰落率

もうひとつ、預貯金の利率と投資信託の騰落率とでは決定的に異なる点があります。

預貯金の利率は将来受け取れる収益を示すのに対して、投資信託の騰落率はあくまでも過去の運用実績であることです。

1年物定期預金の利率が年0.3%だとしたら、それは1年後の満期日時点で元本に対して0.3%の利息が戻ってくることを意味しますが、投資信託の騰落率はあくまでも過去の収益率なので、将来受け取れるリターンがどうなるのかは誰にも分かりません。仮に過去10年間の騰落率が150%だったから、今後10年間も150%のリターンが実現するとは限らないのです。10年間でマイナスのリターンになることだって、十分に考えられます。

騰落率がそういう性質のものである以上、雑誌やサイトに掲載されている騰落率のランキングは、投資信託を選ぶ際の判断材料にはならないことが分かると思います。

たとえば2021年10月末を基準日にした過去10年間の騰落率ランキングを見て、最も騰落率が高い投資信託を買ったとして、10年先も他の投資信託に比べて高い騰落率で運用できる保証はどこにもないのです。そうである以上、騰落率ランキングで投資信託を選ぶのはナンセンスです。

また、騰落率はいつを基準日にするかによって、ランキングや数字が大きく変わってしまいます。

過去1年の基準価額で考えてみましょう。次のような基準価額で推移した投資信託をイメージしてみてください。

2020年7月末 1万円
2020年8月末 1万1,000円
2020年9月末 9,000円
2020年10月末 1万2,000円



2021年7月末 1万2,000円
2021年8月末 1万円
2021年9月末 1万3,000円
2021年10月末 1万1,000円

このように基準価額が推移した投資信託の過去1年間騰落率を、2021年7月から10月まで計算すると、次のようになります。

7月末……20%
8月末……▲9.09%
9月末……44.44%
10月末……▲8.33%

7月末の過去1年間騰落率は20%なので、まあまあ良い運用成績であるように見えますが、その1か月後の8月末時点における過去1年間騰落率は▲9.09%まで低下します。さらにその翌月は44.44%というように急上昇し、さらにその翌月は▲8.33%まで急落します。

以上はやや極端な例ですが、このように基準価額が大きくブレる投資信託になると、どこかの時点で騰落率を計算した結果、ランキングの1位に上がったとしても、その翌月にはランキングで20位、30位まで下がってしまうということも起こりえます。つまり一時点の騰落率ランキングを見ても、投資信託を選ぶ際の参考にはならないのです。

過去の運用成績が参考材料になることもある

騰落率が投資信託選びの判断材料にならないのだとしたら、どうすれば良いのでしょうか。それは個々の投資信託の運用成績よりも、投資先となるマーケットの将来性を重視することです。

もちろん騰落率をベースにした運用成績を完全無視しても良いということではありません。違う形で過去の運用成績を参考にすることもあります。ただ、投資信託を選ぶ最初のスクリーニング基準は、「騰落率ランキング上位の投資信託」ではなく、「将来、有望なマーケットはどこなのか」ということなのです。

「米国経済は10年後も20年後も安定的に成長する」と思うなら、米国の株式市場に投資する投資信託を選べば良いですし、「どの国が成長するのかは分からないけれども、世界人口はこれからもどんどん増えていくから、世界全体の株式市場に投資しよう」と考えているのであれば、全世界株式に投資する投資信託を選べば良いでしょう。

過去の運用成績を参考材料にするのは、ここから先の話です。過去の運用成績は未来を語るものではありませんが、その投資信託がどの程度のリスクを内包しているのかを、大まかにではありますが、把握できます。この点において、過去の運用成績は投資信託を選定する際の判断基準のひとつになります。

実際に、どうすればそれを判断できるのかについては、次号で説明しましょう。

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