父の地元で遺志継ぐ 岐阜の測量会社が佐世保・高島に水産加工場 離島初の規制緩和活用

国の規制緩和を活用して建設したACSの水産加工工場=佐世保市高島町

 長崎県佐世保市の離島、高島にある遊休状態の漁港用地に、岐阜県高山市の測量会社「ACS」(重村友介社長)が、水産加工工場を開設した。漁港用地の利用は漁協などに限られていたが、国の規制緩和を活用し、実現にこぎ着けた。県などによると、規制緩和の活用事例は少なく、「離島では全国初」。42歳の若き社長は、高島で生まれ育った父の“遺志”を継ぎ、地域活性化も見据える。
 佐世保市相浦港から西へ約6キロ。九十九島の海域に人口約160人の高島は浮かぶ。漁港敷地に完成した工場には、地元の漁師が鮮魚を持ち込み、スタッフが手際よくさばいてパックに詰めていく。「これからもっと忙しくなる。父もきっと喜んでいる」。社長の重村さんはほおを緩めた。
 重村さんの父、輝男さんは高島出身。高校卒業後に県外に出て岐阜県の測量会社に入った。1982年に独立し、ACSの前身の会社を設立した。
 重村さんは2001年から父の元で勤務。06年、父からの突然の提案に驚いた。「高島の漁師から仕入れた魚を加工販売する。古里を元気にしたい」。新たな収入源となる可能性はあるが、物販は全くの専門外。重村さんは高島になじみがなく、戸惑いもあった。
 父は07年にネットショップ「よか魚ドットコム」を開設。高島に小さな工場を建てた。業績は徐々に伸びたが、10年に父は持病が原因で急逝。55歳だった。

「島民と協力して高島を活性化させたい」と意気込む重村社長=佐世保市高島町

 経営を継いだ重村さんは何度も高島を訪れ、島民と信頼関係を築いた。鍋食材として売り出した高級魚クエがヒットし、大手通販「楽天市場」の水産部門で10年連続1位に。水産事業は測量と並ぶ収入の柱となった。  事業拡大に向け、新たな工場建設を模索していた19年に、国が漁港用地の規制を緩和した。国庫補助で整備した用地を漁業関係者以外にも利用しやすくした。重村さんは高島漁港の遊休地に新工場を建設できないか佐世保市に相談。市は規制緩和を適用できると判断、一般公募を経て、ACSの計画が雇用創出や水産振興につながるとし、同社に用地を貸した。
 10月下旬に新工場(約260平方メートル)は開設。食品衛生管理の国際基準「HACCP」に対応したほか、瞬間冷凍などの最新設備を導入し、商品開発に力を入れる。
 さらに、「島民を支える拠点でありたい」と重村さん。島内には商店がなく、買い物支援のため、工場内に食品や日用品の直売所も併設。観光などで地域を活性化させる協会設立も検討し、「離島振興のモデルを目指す」。第2の古里となった高島で、新たな目標に向かって挑戦を続ける。


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