市川さんの顕彰碑

 「やあ! よう来てくれたね」。柔和な表情のレリーフから今にも声が聞こえてきそうだ。日本を代表する脚本家・市川森一さんの顕彰碑が、故郷諫早の市立諫早図書館に建てられた▲市川さんが亡くなって10年。地元有志らでつくる建立委員会が費用を募ると、目標額の800万円を大きく超えた。11月27日の除幕式には140人が集まった。まさに郷土を愛し、郷土に愛された市川さんだった▲式で配られた記念誌の表紙には「誰かのために それも誰かを幸せにするために」という直筆の一文が記されている。妻の美保子さんが遺品の整理中に見つけた資料に残されていた書き込みだ▲テレビの前にいる人々を幸せにしたい-。その思いが根底にあったからこそ「ウルトラセブン」「黄金の日日」「親戚たち」「蝶々(ちょうちょう)さん」など、あまたの名作を生み出せたのだろう。美保子さんは「市川の本心を知ってほしい」と、この言葉を表紙に置いた▲顕彰碑には肖像のレリーフとともに、市川さんが好んだ「魂よ 元気を出せ」という自作品のせりふがあしらわれている。味のある字は、多数の市川作品に出演した同郷の俳優・役所広司さんが揮毫(きごう)した▲碑の前に立つと、良いドラマを見た後のように生きる力がわいてくる思いがする。それが実に市川さんらしい。(潤)

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