「the talented touch」(1958年・Capitol Records) 努力で上り詰めた巨人 平戸祐介のJAZZ COMBO・10

「the talented touch」のジャケット写真

 この連載も昨年からスタートして10回目。これからもジャズをもっと親しんでいただける連載にしていこうと思っています。
 さて、今回ピックアップするのはピアニストのハンク・ジョーンズ(1918~2010年)。彼はジャズ界で有名な「ジョーンズ三兄弟」の長男。次男はトランペット奏者のサド・ジョーンズ。そして三男は長崎市出身の妻を迎え、同市に永住したドラマー、エルビン・ジョーンズなのです。
 ハンクはデビュー当時から生涯にわたってリリカルでスインギーなスタイルを貫き、流行の音楽スタイルに左右されない演奏家でした。その姿勢は、ジャズピアニストを志すミュージシャンにとってよい手本となっています。
 彼の演奏にはフレーズ、リズム、ハーモニーの全てにおいてジャズの歴史的事実がふんだんにちりばめられています。特にサックス奏者キャノンボール・アダレイのアルバム「サムシン・エルス」(1958年)の「枯葉」では、ロマンチックかつスリリングで官能的なプレイを聴かせてくれます。
 当時の彼は、天才サックス奏者チャーリー・パーカーやトランペッターのディジー・ガレスピーらとの共演を経験し、メキメキと頭角を現していました。
 そして、「サムシン-」の発売と同年に録音されたのが、ハンクの隠れた名作「the talented touch」。全編を通じて独特のリラックス感やしゃれた節回しが堪能できるアルバムで、筋金入りのジャズファンから初心者まで楽しめる1枚です。
 そんな彼に私が会ったのは今から十数年ほど前、オランダで開かれた「North Sea Jazz Festival」に出演した時でした。たまたま宿泊先のホテルが一緒で、握手をしてもらったのは大変貴重な思い出です。去り際、彼は私に「ピアノがうまくなるには練習しかない。絶対にそれしかない、がんばるんだぞ!」と語りかけてくれました。この言葉は今でも大切に胸に刻んでいます。
 ジャズの巨人たちの中には、天才的なひらめきに満ちた人が多いですが、シーンを上り詰めたハンクの音楽を聴く度に、努力を怠らないことの重要さを改めて感じるのです。
(ジャズピアニスト、長崎市出身)

© 株式会社長崎新聞社