「再就職しないとダメでしょうか?」夫に内緒で資産運用をする専業主婦の悩み

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、49歳専業主婦の女性。相談者には、会社員時代に貯めた資産があり、運用で利益を出していますが、夫には明かしていません。夫は将来を心配して再就職を促してくるけれど、相談者はもう働きたくないので悩んでいます。再就職する必要はあるのでしょうか? FPの秋山芳生氏がお答えします。


資産運用で暮らす専業主婦です。夫に「老後の安心のため、厚生年金の加入期間は長いほど良い」と再就職を促されています。年金支給スタートまで、現状維持ではダメでしょうか?

かつて15年ほど会社員をしていました。子供が手を離れつつあるので、夫から やんわりと、再就職または個人事業主起業のプレッシャーをかけられています。夫は、私の資産状況は知らないので、老後資金を心配しているのだと思います。

資産状況に書いた分とは別で自分名義の資産は、貯金約5,500万円と、投資信託700万(全てインデックスの株式で新興国、先進国、国内、米国に分散)と、株300万(国内株式のみ)です。

私の貯金は、会社員時代の給与と退職金を貯めたものと、その一部で投資信託や株の売買を継続している利益を加えて現在の額に至ります。劇的に増やすリスクは取らず、2~5%の運用益を目指しながら 前年より資産を減らさないことをモットーに続けています。一時期はデイトレもしていましたが、今はあまりしません。運用益と配当金の一部で、たまに服を買ったり友人とランチをする程度で、無駄な使い方はしません。子供の進学費用と非常事態用としてなるべく手をつけたくないのです。

家計は、残業や成果で収入が変動しますが、毎月必ず12万を先取り貯金で確保し、それ以上残る場合は投資信託に回しています。ボーナスは、隔年で旅行やレジャーに30万程使っていましたが、コロナ以降は全部貯金になっています。

余剰資金があると知れば、夫の仕事へのモチベーションが低下する懸念から、このまま家計からの貯金や運用とは別で、私は私でこっそりと資産運用を続けて暮らしていきたいです。

資産を減らさないor少しずつ増やすことに注力していくより、夫の言うように厚生年金を増やす生き方を選ぶのが堅実なのでしょうか? 会社員時代は激務ゆえの高収入でしたが、15年間で一生涯分働いたと感じる程の頭脳労働と健康を害する就労時間でした。厚生年金の上乗せが大事なことは理解していますが、再び会社員生活に戻れるか心底悩みます。

率直なご意見やアドバイスを頂きたく思います。

【相談者プロフィール】

・相談者:女性、49歳、専業主婦

・夫:49歳、会社員、定年後も就労継続希望

・子ども:13歳、中学生(公立)。大学進学希望(具体的な大学・学部は検討中)

・住居の形態:持ち家(マンション・東京都)

・毎月の世帯の手取り金額:45~55万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:120~150万円

・毎月の世帯の支出の目安:33万円

・住居費:7万円(資産税月割り、保険、修繕費積み立て、自治会費)

・食費:7万5,000円

・水道光熱費:2万5,000円

・教育費:3万円

・保険料:3万円

・通信費:1万円

・お小遣い:6万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:12〜22万円

・ボーナスからの年間貯蓄額:120万円

・現在の貯金総額(投資分は含まない):2,000万円(相談者の個人資産とは別)

・現在の投資総額:500万円。相談者の個人資産とは別。投資信託(つみたてNISAの上限までを含む)、ETF、米国株、国内株で、投資信託の割合が最も大きい)

・現在の負債総額:0円。マンション(築10年)は親から相続済みで負債無し、その他の負債も夫婦ともになし。

・夫の退職金:65歳定年で2,000~2,500万。ただし58歳前後で役職定年で年収は今の7割に。

・老後資金:夫の額は未確認。私は、今年のねんきん定期便の加入実績に応じた年額欄が110万円。

秋山:ご相談いただきありがとうございます。ファイナンシャルプランナー 兼 FP YouTuberの秋山芳生です。今回は、49歳の専業主婦の方からのご相談です。ご自身の資産が5,000万円以上あることを夫に伝えていないので、逆に夫から老後の心配をされています。また、働いていた時期が忙しかった為、また働きだすことに消極的になっています。老後を考えた場合に今から働きに出た方が良いか、このまま専業主婦をしながら資産運用をした方が良いか、家計の状況を把握しながら一緒に考えていきたいと思います。

毎月の収支、変動費は問題なし

まずご主人の月収入の状況です。残業代によるのか営業職なのどのインセンティブがあるかは不明ですが、45万円から55万円と幅があります。月の支出は約33万円で、収入が下限の45万円でもしっかり生活や貯蓄ができるように生活をコントロールされていると思います。またボーナスも120万円ほどあるので全体的にゆとりがあり問題ないと言えます。
その他の支出の内訳がアバウトな為、詳細はわかりませんが、お小遣い6万円の中で衣服・美容、医療、趣味・娯楽、交際、日用品、交通などの費用をやりくりをされているのであれば問題ないと思います。

固定費は改善の余地あり

家計の中で、敢えて改善点や課題を考えていくと、保険や住宅などの固定費については改善点や課題があるようにも思います。

保険については3万円と高額なので、見直しをしても良いでしょう。おそらく死亡保険だけでなく、医療保険や貯蓄型保険に入っていると思われますので、断捨離をすると、2万円以上を貯蓄に回せると思います。貯蓄保険は、解約返戻金がどのような状態にあるのかわからないので一概に解約すべきとも言えないのですが、「たいして増えない」「資金拘束される」「保障は薄い」「掛け金は大きい」ことからあまりおすすめできません。医療保険については、預貯金から十分に支払えるので敢えて保険で備える必要はないでしょう。高額療養費などの制度をしっかり把握することで医療費に関する不安も減ると思いますので、調べてみると良いでしょう。

不動産のランニングコストに注意

住宅については、親から相続を受けて東京都内のマンションを所有されています。住宅ローンの無い物件を持っているのはアドバンテージに見えますが、一方でランニング費用は非常に高い状態です。住宅関連の費用が月に7万円ですので、年間84万円がかかっています。内訳がわからないので、固定資産税25万円、修繕積立金36万円、管理費12万円、個別の修繕費用6万円、保険5万円と想定すると、物件価格がかなり高いものを所有されているのではないかと思われます。

都内の高額なマンションを所有している場合は、ランニング費用が非常に高くなりがちです。この修繕費や管理費は年が経つとコストが上がっていく傾向があります。築15〜20年で当初の125%や200%まで上がるケースも少なくありません。修繕積立や管理費のコストの今後の計画表があると思いますので、確認すると良いと思います。

さらに、今から20年30年後には築30〜40年となりますので、フローリングや水回りなどの大型修繕費用が300〜1,000万円ほど発生することを想定しても良いと思います。

今の支出をキープできれば働かなくても問題なし

資産についてですが、現金が2,000万円、運用資産が500万円に加えて、ご相談者様の現金が5,500万円と運用資産が1,000万円あるので、トータルでみると9,000万円分の資産があることになります。

ご主人の退職金の想定も2,500万円ほどあり、おそらく積立保険の解約返戻金もあるので今の支出をキープできていれば資産上は老後破綻のリスクは少ないでしょう。

ご相談いただいている、「働かなくても良いか」「働く方が良いか」については、順調にいけばご主人の収入が高いので、今のまま専業主婦でまったく問題ないと思います。

考えられるリスクは長生きと住宅の老朽化

一方で、敢えて考えられるリスクは女性の長生きリスクと住宅の老朽化です。

2021年9月に発表された100歳超えの日本人の数は8万6,510人となり、51年連続で増え続けています。この年、初めて男性の100歳超えが1万人に到達しましたが、全体の9割となる7万6,450人は女性です。圧倒的に女性が長生きになっているのです。子育てが終わり自立した上で、万が一ご主人が早くに亡くなられることがあると、非常に長い期間一人暮らしをする可能性もあります。その上で、先にお伝えしたとおり家のランニング費用(管理費・修繕費など)が嵩んでくると、資産が減っていく一方になります。また体力の衰えや、病気、認知症のリスク、介護を受ける可能性も十分にありますので、どこまで行っても不安は消えないと思います。

不安があるのであればストレスフリーでできる仕事をするのもあり

人生100年時代と捉えた時に、49歳という年齢は折り返し地点に過ぎないことを考えると、まだまだやれることは多くあるのでは無いかとも思います。リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)によれば、「無形資産」とよばれる次の3つの資産が100年時代を生き抜くのに重要であるとされています。

・生産性資産 仕事のスキルや知識、仲間、人的ネットワークなど
・活力資産 健康や愛情・家族・友人・コミュニティなど 活力を与えてくれる源泉
・変身資産 新しい意向を成就する力、変化に適応する力など

特に長い期間をうまく生き抜いていく為には変身資産が重要と言われています。

そういった意味で、現状の環境の中にどこかに不安があるのであれば、仕事を再開してみるのも良い選択になるかもしれません。以前のように働きすぎる必要もないと思いますし、無理なことや嫌なことを続ける必要もないと思います。ご自身のやりたい仕事を、やりたい時にやりたいだけやれば良いと考えて、ストレスフリーに続けられることを探してみてはいかがでしょうか?厚生年金を得ることを目的に働くとなると、労働時間なども最低限決まってしまいます。そうではなく、ご自身のやり甲斐があることを通じて、生産性資産や、体力、コミュニティの形成、承認欲求を満たすことなどを目的に考えると良いのではないかと思います。

できればパートナーと家計状況を話し合う環境が理想

最後になりますが、長い人生の中でパートナーと人生のゴールや長期の目線がそろっていると不安は少なくなります。夫婦で将来のプランやお金の話をして目線をそろえると、ご主人からも「厚生年金の為に働いたら?」ではなく、「やりたいことをやったら?」などと、アドバイスや応援をもらえるかもしれませんし、「それだけ資産があれば安心」と特に何かを言わずに自分の仕事に邁進されるかもしれません。夫婦でお金の認識がずれていると、意識や相手を思いやる気持ちや出方も変わってきます。家計は「家のはかりごと」ですので、ご夫婦で資産や家計の状況などについてよく話し合われると、パートナーとしての信頼感も高まり、不安も少なくなると思います。どこか参考になれば幸いです。

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