51歳会社員、貯蓄ゼロ、月10万円の住宅ローンが75歳まで…どうすればいい?

住宅ローンの多くは返済期限が最長35年ですが、あまり深く考えずに35年で契約した方も多いのではないでしょうか。繰上げ返済を予定していたけれども、気がついたら50代に突入…このままで大丈夫?と不安になった方、何から手をつけたら良いのかを一緒に考えていきましょう。


住宅取得の年齢とローン完済年齢は年々上昇している

住宅金融支援機構が発表している2020年度 フラット35利用者調査によると、直近10年の中心的な利用年齢層は、30歳代の割合が減少する一方で50歳以上の割合が増加しています。

2020年度の利用年齢の平均は40.3歳、また、利用者の償還期間、すなわち返済期間は平均で33.1年、中央値は35年です。これらの数字から、多くの人が35年ローンを組み、完済を計画する年齢は平均73.4歳であることが読み取れます。

筆者はファイナンシャルプランナーとして活動しています。先日、51歳会社員のAさんから、「毎月10万円の住宅ローンを75歳まで返済し続けることができるか心配だ」という相談を受けました。今回はこのAさんの事例から、住宅ローンの見直しポイント・手順をみていきましょう。

現状の延長線上で75歳まで返済は可能?

Aさんは単身世帯、貯蓄はほぼゼロです。まずは、今の生活の延長線上で住宅ローンを75歳まで払い続けることができるか確認しました。Aさんの住宅ローンの残債は約2,200万円、毎月10万円の返済がこれから24年続きます。返済中のローンは全期間固定タイプで金利2%なので、借り換えを検討する価値があります。

例えば、20年の固定タイプで金利を1%まで下げた場合、返済額は今より月2,000円ほど増えるだけで、返済期間を4年縮めることができ、今後支払う利息を340万円ほど減らすことができます。借り換え手数料を考慮しても一考する価値があるでしょう。

また、固定金利にこだわりがないのであれば、変動金利にすることで更に返済負担を減らすこともできるのですが、ここはAさんの判断に任せることにしました。

ねんきん定期便で公的年金の受給見込み額を調べる

次にAさんのねんきん定期便で受給見込額を確認しました。記載されている金額は、今の働き方と同じ年収で60歳になるまで続いた場合の受給見込額です。Aさんの年金受給開始年齢は65歳からのため、65歳になるまでは働くつもりということです。ただし、60歳以降の年収は不透明なので、このくらいは稼げるであろう見込み年収をAさんに決めてもらいます。

それに基づいて試算すると、65歳からの公的年金の受給見込額はねんきん定期便に記載の174万円に60歳以後の増額分約6万6,000円を合わせ、概算で年額180万円になることがわかりました。

退職金制度を確認する

さらに、重要なのが退職金制度の有無です。というのも会社員であれば必ず退職金を受け取れるとは限らないからです。勤務先に確認したところ、60歳で退職一時金を600万円ほど受け取る見込みとのこと、また、企業型確定拠出年金など他の制度がないことも分かりました。

ここまで確認してきたことで大枠が見えてきました。住宅ローンの借り換えを行なった場合、75歳から71歳に返済期間を短縮することができます。公的年金の年間受給額180万円からローン返済額122万円をマイナスすると残りは58万円。ただし、180万円は額面ですから、ここから税金と社会保険料が引かれます。

実際の手取りは65歳から71歳になるまでの間は約50万円、年間50万円で暮らすことは非常に厳しいでしょう。仮に退職金600万円を6年分の生活費に充当した場合、年間の生活費は150万円、月12万5,000円です。暮らしていけるかもしれませんが、手持ち資金を全て使い果たしてしまうのは心許ないものです。

選択肢を考えておくことが重要

住宅ローンの借り換えをすることで返済負担は軽減されるものの、このままでは老後の暮らしへの不安が残ります。とはいえ、Aさんは51歳ですから、いくらでも軌道修正は可能です。具体的にAさんに提案した対策を挙げてみましょう。

まず早急に行なっていただきたいことは、老後資金作りです。Aさんの勤務先の退職金制度は退職一時金だけなので、iDeCo(個人型確定拠出年金)を利用すれば月2万3,000円の拠出ができます。2022年5月からiDeCoの加入年齢が原則65歳まで拡大されるのも朗報です。今す始めて65歳になるまで加入できれば、これから14年間拠出ができますからまとまった老後資金が作れます。

仮にiDeCoが2%の利回りだと445万円ほどになり、年収に応じた節税メリットもあるのでその分も貯蓄に回せます。今の家計収支を見直し、iDeCo以外にNISAといった優遇制度も併用して老後資金作りを進めていくことが重要です。

また、住宅ローンについては、借り換えを検討すること、そして、返済を続けていくのであれば長く働き続けることも有効です。2021年4月に一部の会社が対象ではありますが、「70歳までの就業機会の確保」が努力義務化されました。これに伴い、雇用環境は変化していくでしょうから、勤労収入を得ることと公的年金を繰り下げ増額することを両輪で考えておきましょう。

最後にお伝えしたことは、マイホームについての考えです。Aさんは独身ですので、住宅を誰かに遺したいという意思がなければ、リバース60といったローンを利用するのも一考です。返済は利息だけなので月々の返済が少ないことや元金の返済は死亡時の一括払いといったメリットがあります。一方で借入限度額が低いことや元金を返済しない限り返済が続くといったデメリットもありますが、選択肢として今後検討をしても良いでしょう。

人生を100年で考えたら、Aさんはようやく折り返したところです。今後、働き方やそれに関わる制度は変化していくでしょうから、時機に応じてより良い対策が出てくる可能性もあります。柔軟な思考を持って対応を考えていきましょう。

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