南島原「三県架橋」構想から40年 近くて遠い天草 2022長崎知事選 まちの課題点検・3

南島原市口之津町の瀬詰崎灯台から早崎瀬戸、天草下島を望む

 島原半島の最南端に位置する長崎県南島原市の「瀬詰崎灯台」。潮の流れの速さで知られる早崎瀬戸の向こうに天草下島がくっきりと見える。その距離わずか5キロ。市民にとって隣県は近くて遠い存在だ。「行け行け、どんどんの雰囲気だった1987年ごろに橋が架かっていたら、今とは違った光景になっていたでしょうね」。市町村合併前、地元の南高口之津町で助役を務めていた松尾壽春さん(78)はしみじみと振り返った。
 南島原市、熊本県天草市、鹿児島県長島町を二つの橋で結ぶ「三県架橋」。九州西岸地域の発展や九州全体の浮揚につながる事業として3県が実現を目指しているが、構想から40年余りが過ぎた今も具体的な動きは見えず、住民の関心は薄れつつある。

「三県架橋」実現を呼び掛ける看板。構想から40年以上が過ぎ、地域住民の関心は薄れつつある=南島原市南有馬町

 3県と地元の各期成会などで組織する「島原・天草・長島架橋建設促進協議会」の事務局(長崎県地域づくり推進課内)は「国の大型公共事業の見直しなどにより、2008年に海峡横断プロジェクトが凍結されて以降、厳しい状況が続いている。国の調査再開に向けて働きかけに力を入れ続けるとともに、地域間の積極的な交流を促進し、機運の醸成に努めたい」としている。
 同協議会の年間概算事業費は約400万円。地元関係者が一堂に会して架橋の実現を誓う構想推進地方大会をはじめ、少年サッカー大会や絵画コンテストを通して盛り上げを図っているが、最近はコロナ禍の影響で開催できていない催しもある。
 1月初め、本紙が実施した県内新成人へのアンケート。南島原市の協力者4人全員が古里の最重要課題に「交通網の整備」を挙げた。長崎市まで車でおおよそ2時間。地域高規格道路「島原道路」の完工はまだまだ先だ。地元では、企業誘致や産業・地域振興の最大の足かせが「道路網」との見方は少なくない。
 2000年に5万7千人だった南島原市の人口は、昨年11月時点で4万3500人に。この20年間で1万人以上減った。老年人口(65歳以上)が4割に達し、生産年齢人口(15~64歳)は減少傾向。地域活力の低下も目立ってきた。
 同市出身の新成人、田原千裕(ちひろ)さんは「架橋が実現すれば地域の起爆剤になるはず。特に鹿児島とのルートができれば観光面でもプラス。地域経済も潤う」と期待を寄せる。松尾さんは「旗印を維持するのか、それとも降ろすのか。そろそろ判断するときではないか。自分の生きている間には難しいだろうが、いちるの望みを託したい」と語った。


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