まん延防止、長崎県内全域適用1カ月 運転代行業「耐えられない」 酒、鮮魚、食肉業…支援切望

飲み屋街の一角で待機する運転代行の車。午後8時前、すでに街の明かりは少なかった=長崎市内

 「駐車場に車も止まってないし、人の姿もないでしょ」。2月下旬、午後8時前。長崎市の飲み屋街近くで待機していた運転代行の男性ドライバーは諦めた口調でつぶやいた。フロントガラス越しに見える街の明かりは少なかった。
 新型コロナウイルスの感染急拡大を受け、来月6日まで県内全域に適用されている「まん延防止等重点措置」。今月21日からは、感染対策の第三者基準を満たす認証店で酒類提供を認めるなど一部緩和はされたが、「まだ開けている店は少ない」(男性ドライバー)。
 同市内で運転代行業を営む井上盛太さん(40)はコロナ前、7台の車両を稼働し、忘年会シーズンなど多い時は一晩で20万円近くを売り上げた。現在は1~2台動かしているが、客がゼロの日も珍しくない。ガソリン代は高騰し、車両を動かさなくても保険代や維持費、事務所の家賃など固定費は発生するという。
 他業種も状況は厳しい。ただ、飲食店ならテークアウト、タクシーなら昼間の運行など「(収入を補う)何かしらの経済活動はできる」と井上さんは主張し、窮状を訴える。「店でお酒を飲む人がいなければ私たちの仕事は本当にない。もう業界として耐えられないかもしれない」
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 飲食店に酒類提供自粛や営業時間短縮などを要請する重点措置が県内全域に適用され、1カ月以上が経過した。飲食店だけでなく、関連業種からも悲痛な声が漏れる。

■酒、鮮魚、食肉業…支援切望 売り上げ9割減「見捨てないで」

業界団体などが県に支援を求めて提出した要望書

 新型コロナウイルス対策の「まん延防止等重点措置」が長崎、佐世保両市に適用されたのが1月21日。5日後の26日には県内全域に拡大された。ただ、2月に入っても感染状況は改善せず、3月6日まで期間を延長した。
 重点措置適用に伴い、運転代行業同様、飲食店の納入業者も多大な影響を受けている。酒や鮮魚、食肉などの業界7団体は1月20日、適用を前に「支援を求める要望書」を県に提出。県独自の支援策などを求め、「追記」としてこんな文書を添えた。
 「酒類の提供が悪者扱いされるような表現がマスコミ等において散見」されるが、「酒が感染を広げるのではなく、飛沫(ひまつ)が感染を広げている」「お酒に対する親しみが損なわれないように」-。感染拡大のたびに飲食店が時短営業を強いられ、窮地に立たされている状況がつづられていた。
 要望した団体の一つ、県小売酒販組合連合会の柴田淳会長によると、県独自の緊急事態宣言などが出された昨夏の第5波を乗り切り、11月ごろから売り上げは回復傾向だった。ところが1日当たりの新規感染者が150人を超え、過去最多を更新した今年1月中旬ごろから売り上げは再び急減。さらに重点措置が適用されてからは「飲食店との取引はほぼゼロ」(柴田会長)になった。
 島原半島で戦前から続く酒店も、この1カ月の売り上げは以前の1割程度に落ち込んだ。70代の男性店主は「この店で半世紀仕事をしてきたが、今が一番厳しい」とぼやく。お得意さまからの追加注文に備え、毎日夜遅くまで店を開けているが、電話は鳴らない。
 店主は「コロナが収束したときに酒屋がなくなっていては取引先に申し訳ない。個人客やオンライン販売で何とかしのぎたい。みんなが心から食事やお酒を楽しめる日が来るまで」と歯を食いしばる。
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 コロナ禍で影響を受けた事業者に対し、県が活用を呼び掛けているのが国の「事業復活支援金」。売り上げの減少幅に応じ、中小企業は上限250万円、個人事業者は上限50万円を受け取れる。県は本庁や各振興局に窓口を開設し、申請を支援。担当者は「手続きは煩雑だが、有資格者がちゃんと受け取れるようにサポートしたい」と話す。
 ただ、それだけでは「足りない」と、県や各市町に独自の支援策を求める声は少なくない。県の担当者は「厳しさは伝わっている」としながらも、財源の問題もあり、「独自支援が可能かどうかは検討中。どの業界がどのくらいの影響を受けているか見極めてから」と慎重に話す。
 業界関係者の男性は切実に訴える。「見捨てないでほしい」


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