<いまを生きる 長崎のコロナ禍>自営業者、苦渋の選択も 理美容業一筋の男性 収入激減、副業探す

副業について相談支援員(奥)に相談する貴之さん=県央地区の自立相談支援機関

 出口の見えない新型コロナ禍。影響が長期化する中、売り上げ低迷にあえぐ自営業者の中には、生活に困窮し苦渋の選択を迫られる人もいる。理美容業一筋という長崎県内の50代男性は「自分にはこの仕事しかない」と思っているが、やむなく副業を探し、ぎりぎりのところで踏みとどまっている。
 「ハローワークからの書類です」。今月1日、県央地区の自立相談支援機関を訪れた貴之さん=仮名=に相談支援員が封筒を手渡した。同地区で約30年間、理美容業を営んでいるが、コロナ禍で収入が激減。副業を探している。
 「腕が良い」と評判で、店はほぼ予約制。特にお酒を出す飲食店やイベント関係の常連客が多かった。だがコロナ禍で状況は一変。飲食店は臨時休業を強いられ、イベントも軒並み中止に。そのあおりで、週末でも客が1人、2人しか来ないこともあった。手取りの月収は2、3万円とコロナ前の1割程度にまで落ち込んだ。
 貯金を切り崩した。生活費を切り詰め、金融機関から借り入れもした。国の持続化給付金など公的支援も受けながら、何とかしのいできた。それでも負債は膨らむ一方。誰にも相談できずに眠れない日が続いた。
 昨年9月、心配した妻の後押しで駆け込んだのが、グリーンコープ生活協同組合長崎(県本部・長崎市)が運営する自立相談支援機関だった。相談支援員が生活困窮者向け支援制度の情報や申請手続きなどを丁寧に教えてくれた。「困っていることがあったら言ってください」。支援員の言葉が胸に染みた。
 「夜中にアルバイトをしてでも」。貴之さんは営業を継続しながら副業を探すことを決意。今年1月、ようやくホテルの仕事が見つかった。夜中から翌朝まで働き、午前中に仮眠を取って午後から店を開けた。
 2日間出勤したところでホテルから1本の電話があった。「休館します」。まん延防止等重点措置適用に伴う臨時休館。「こっちもかよ」。怒りや悔しさがないまぜになり、思わず悪態をついた。
 貴之さんは今も、支援員の助言を受け、国の支援金の申請をしながら副業を探している。知り合いの飲食店の中には、いったん店を閉じるところもある。重点措置は6日までで解除されたが、飲食店が営業再開して客が戻るのかは「開けてみないと分からない」。入り交じる期待と不安。それでも「自分にしかできない技術があると信じている。地道に頑張るしかない」。貴之さんはそう言って、真っすぐに前を見詰めた。

■自立相談支援機関とは

 2015年4月の生活困窮者自立支援法施行で、「生活保護に至る手前の新たなセーフティーネット」の一環として自治体が直営か委託して設置。県内21市町ごとにあり、相談員が困り事を聞き取り、利用できる制度を紹介したり、支援計画を立てたりする。20年度の県内の新規相談受付件数は7346件で19年度(3530件)から倍増した。21年度は12月末までの速報値で5407件(前年同期比204件増)。


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