手取りが160万円増える昇進を断ってもよい?家庭と仕事の両立に悩む44歳女性

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、44歳、会社員の女性。同い年の夫と共働きで二人の子どもと暮らす相談者。会社から昇進試験を受けないかと打診されていますが、収入増は魅力的と感じつつも、家庭との両立に不安を感じており、家計に問題がなければ断ることも考えていますが…。FPの氏家祥美氏がお答えします。


会社から昇格試験を受けないかと言われました。もし、昇格出来れば年間160万程手取り収入増が見込まれます。とても魅力的ですが、仕事の負担増により家庭と両立出来るか不安です。今の収入でも教育、老後資金に問題がないのであれば、お断りすることを検討しています。

現在、上の子は私立中学に通っており、下の子も中学受験に向けて通塾しています。また、子供達はそれぞれ薬剤師、獣医になる夢があり、学費がかなりかかることを想定しています。

先生のご意見を参考に出来ればと思い、応募しました。

【相談者プロフィール】

・女性、44歳、会社員(正社員)

・夫:44歳、会社員(正社員)

・子ども:14歳、10歳

・住居の形態:持ち家(戸建て・千葉県)

・毎月の世帯の手取り金額:59万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:210万円

・毎月の世帯の支出の目安:50万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:6万円(固定資産税含む)

・食費:7万円

・水道光熱費:1万円

・教育費:14万円

・保険料:16万円(学資保険、老齢保険で2,700万円受取る予定。また、掛捨てで収入保障保険に加入)

・通信費:1万5,000円(固定電話・ネット代1万円、携帯4台分5,000円)

・車両費:1万円(ガソリン代、自動車税、車検代含む)

・お小遣い:なし

・その他:5万円(家電等買換予備費)

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:7万円

・ボーナスからの年間貯蓄額:210万円

・現在の貯金総額(投資分は含まない):1,200万円

・現在の投資総額:0円

・現在の負債総額:900万円(住宅ローン:購入費4,000万、借入額2,000万円、金利0.975%、 60歳完済予定)

・老後資金:年金額不明。厚生年金の他に夫婦共に会社で確定拠出年金に加入しています

・退職金:夫婦共に貰えますが当てにしていません

氏家:10歳と14歳のお子さんがいるご相談者さんは、勤務先から昇進を持ち掛けられています。昇進すると、手取り年収で160万円増える見込みですが、仕事と家庭の両立ができるか悩んでいます。昇進を断ってもよいかというご相談に、以下の3つの視点からお答えしていきます。

(1)現在の家計の状況
(2)薬学部と獣医学部に行きたいお子さんの学費
(3)昇進と子育ての考え方

やりくり上手の家計!ポイントは?

ご相談者さんはとても家計管理上手です。手取りで210万円あるボーナスを全額貯蓄に回して、毎月の収入の範囲内で暮らしていること。さらに、毎月の家計からも7万円ずつ貯蓄をしていますから、年間で294万円の貯蓄ができています。

ボーナスがまるまる貯められているのは、住居費6万円に固定資産税を含んで管理していたり、月々の家計から家電等の予備費として5万円を取り分けたりしているから。家計の中にはイレギュラーな支出がつきものですが、それをボーナスに頼らないでやりくりする意思が感じられる家計です。

毎月の家計を見ると、通信費や水道光熱費などはとてもコンパクトで、固定費を抑えることに成功しています。一方で、保険料は16万円と高額ですが、そのほとんどが貯蓄性の保険で2,700万円を貯める準備をしているなど、貯めるところは大きく思い切った行動をしています。メリハリの利いたいい家計といえるでしょう。

現在の貯蓄は1,200万円で、さらに年間294万円を貯めています。学資と老後資金目的の保険では、合計2,700万円を受け取る予定です。住宅ローンは900万円の負債が残っていますが60歳に完済予定となっています。ここだけ見ればかなり余裕があるように感じます。

続いて、今後の家計のカギを握る教育費を見ていきましょう。

薬学部と獣医学部に進学希望。教育費はいくらかかる?

10歳と14歳のお子さんがいるご相談者さん。上のお子さんは現在、私立中学に通っていて、下のお子さんも私立中学を受験する予定でいます。私立中学の学費に加えて、中学受験の受験塾などの支払いもあると思われ、すでに教育費が毎月14万円かかっています。

ここで気になるのが、お子さん達の進路です。希望の進路が、薬剤師と獣医ということで、薬学部と獣医学部へそれぞれ6年ずつ通うことになります。学費の目安は次のとおりになります。

薬学部の学費は、国公立大学の場合、6年間の合計で約350万円。私立大学の場合には学校によっても異なりますが、6年間の合計で1,200万円前後と思っておきましょう。

獣医学部の学費は、国立大学の場合、6年間の合計で約350万円。公立大学の場合には、6年間で470万円程度、私立大学の場合には学校によっても異なりますが、6年間の合計で1,200万円から1,500万円程度となっています。

私立大学と考えた場合、薬学部と獣医学部を合わせた学費は2,400万円から2,700万円程度となります。これは大学に納める入学金や学費などの合計ですから、パソコンや教科書や教材費、交通費、一人暮らしをする場合の家賃や生活費などはこれ以外にかかってきます。

ちょうど教育費と老後のために加入している保険の将来的な受け取りが2,700万円なので、老後を含めたマネープランを考える際には、この保険に頼らずに老後に向けた貯蓄と、大学の学費以外の教育費をどこまでカバーできるのかという点がポイントになるでしょう。

今後の貯蓄はどうなる?

現在は、小学生と私立中学のお子さんですが、3年後の2025年には私立中学生と私立高校生になります。私立お二人分の学費に加えて、上のお子さんの大学受験塾などにもお金がかかってくるので、貯蓄が今ほどできなくなるでしょう。

現在、学資保険に加入して教育費を取り分けていますし貯蓄もあるので、学費は国公立・私立のどちらに入った場合でも支払うことができます。気になるのは、学費以外にかかる学習費用および本人の生活費や一人暮らしの家賃なども親が負担するのかどうか。子どもたちがアルバイトをするか、奨学金などを借りて自分たちで将来的に返済していくのであれば、お子さんたちが大学に入ったタイミングで、ご夫婦は老後資金を一気に貯めていくことができます。

一方、こうした資金も親の方で賄ってあげるとなると、老後資金に向けた準備開始時期が6年あと倒しになります。子ども二人を支えている間はなかなか難しいため、上のお子さんが社会人となって独り立ちをする予定の2033年、ご相談者さんご夫婦が55歳のころから、老後資金への貯蓄を加速していくことになります。

昇給を取るか、時間を取るか

「今の収入でも教育、老後資金に問題がないのであれば、(昇進を)お断りすることを検討しています。」とありました。

結論を申し上げると、いまの収入でもお二人のお子さんの学費を出してあげることは可能です。学資保険と老後の保険の内訳はわかりませんが、満期になった学資保険を解約しつつ残りは貯蓄を崩しながら支払う、将来受け取る予定の保険を部分解約するなどお金を回していけば、学費は出せます。その他の資金まですべて親が負担するとなると、ご夫婦の老後資金が多少影響を受ける可能性があります。昇進を断る場合には、退職金額やご夫婦の公的年金の状況を見ながら、どこまでお子さんに援助をするか決めてください。

「もし、昇格出来れば年間160万程手取り収入増が見込まれます。とても魅力的ですが、仕事の負担増により家庭と両立出来るか不安です。」とご自身で書かれているように、結局はお金の問題ではなく、不安感にあると思います。

その昇進は、いま断っても、例えば下のお子さんが中学受験を終えた後に、またチャンスが巡ってくるものですか? もし、次のチャンスが巡ってこないとしても、昇進を断って後悔はしませんか? 昇進を受けた場合、仕事と家庭の両立は本当に難しいでしょうか? 昇進しながらも、家族の協力を得たり、増えた収入の一部を使ったり、職場の理解を得たりして、暮らしを回していくことはできませんか?

もちろん、すでに申し上げたように、子どもへのサポートの仕方や退職金次第で、今回の昇進を見送るという選択も可能です。まずはお金のことを抜きにして、ご自身のキャリアや目の前の不安と向き合って、本当はどうしたいのかを考えてみてください。

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