米国で働く独身56歳。帰国後の年金や住まい、投資資産の現金化のタイミングは?

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、アメリカ在住の56歳独身、会社員の女性。できるだけ早く帰国して、リタイアしたいといいますが、可能でしょうか? また、帰国後にはどんな住まいを選ぶべきか、年金はどうなるのか、投資資産の現金化のタイミングなどはどうすればいいでしょうか? FPの飯田道子氏がお答えします。


現在アメリカで働いていますが。できるだけ早く退職し、帰国を考えています。帰国後はフルもしくはセミリタイア希望ですが、可能でしょうか。

日本の住居については所有のマンション売却金内(現在マーケット価格約5,000万円)で現金一括購入するか、もしくは相続する人もいないので保証人不要(UR等)の賃貸にするか迷っています。又現在投資の割合が高いので徐々に現金化するほうがいいかと思うものの、タイミングが掴めません。

【相談者プロフィール】

・女性、56歳、会社員、独身

・住居の形態:持ち家(マンション、アメリカ合衆国、一人暮らし)

・毎月の世帯の手取り金額:40万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:昨年80万円(この先もあるかは不明)

・毎月の世帯の支出の目安:25万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:9万円(管理費、保険・税含む)

・食費:6万円(外食費含む)

・水道光熱費:0(管理費に含まれている)

・通信費:1万2,000円

・お小遣い:5万円(交際・理容・衣料費含む)

・その他:2万5,000円(日本への一時帰国費用、月割り)、1万円(家電、コンピューター等買い換え・月割)

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:15万円

・ボーナスからの年間貯蓄額:50万円

・現在の貯蓄総額:600万円

・現在の投資総額:7,800万円:(401K & IRA6,600万円。退職するとペナルティなしで引き出し可、投信信託・株1,200万円)

現在の負債総額:0円

【その他】

・老後資金:ソーシャルセキュリティー(シミュレーションによると今退職して67歳から受領の場合月約23万)

・厚生年金:20歳から約7年加入していたが受給資格・金額については未確認

飯田:今回は、アメリカで働いている相談者様です。できるだけ早く退職し、帰国後は完全もしくはセミリタイアを希望しているそうです。日本の住まいはアメリカの持ち家を売却して現金で一括購入するか、保証人不要(UR等)の賃貸にするか迷っているとのことです。その他、現在の資金構成上の投資に対する割合が高いため、現金化するタイミングに悩んでいるようです。相談者様の場合、住いはどのように考えればよいのか、投資を現金化するタイミングはいつなのかを考えていきます。

マイホームは理想にマッチした物件を選んでOK

まずは住まいについてです。現金でマンションを一括購入するのか、URなどの保証人不要の賃貸物件で暮らすのか、どちらのほうがよいのかとのことです。

結論から言えば、一括購入する場合の予算として5,000万円ありますので、都内であっても場所によっては新築物件も狙えます。気に入ったものがあったら購入してもよいでしょう。

ただし、購入した場合には毎月の管理費と修繕積立金、固定資産税も必要になります。これらの金額は、物件の戸数や広さ、地域によって変わってきますので、購入前には確認するようにしてください。

一方のUR賃貸ですが、東京近郊、都内で暮らす場合の毎月の家賃は7万円~25万円程度です(空き状況により変動あり)。これがおおよその目安です。たとえば57歳で帰国した場合で家賃15万円の物件で暮らした場合は、90歳までにかかる費用は、年間180万円×33年間=5,940万円になります。もちろん、これよりも賃貸料の低い物件は多くありますが、購入しても賃貸を選んでも大きな差はないと思われます。

URはイメージよりもきれいでリニューアルされている物件も多くあり、一般の賃貸に比べると割高な物件は少なくありません。一般的な賃貸物件の中には保証人がいない場合でも保証会社利用可の物件も多くありますので、フレキシブルに対応してください。

いずれにしても、購入するのか、賃貸にするのかは簡単に決められずに迷っていらっしゃると思います。ただ、家は実際に見てみなければ分かりません。自分にとっての優先順位、立地、価格、利便性、間取りなどを順番付けし、自分の理想にあった物件を選ぶとよいでしょう。

帰国するのは60歳を過ぎてからがよい? 年金はどうなるの?

できるだけ早く帰国したいと考えていらっしゃるのですが、日本に60歳前に帰国した場合、国民年金の加入義務が生じます。2022年の国民年金保険料は、月額1万6,590円(年間納付額19万9,080円)となっており、支払わなくてはなりません。

現在の資産状況から考えても支払うことは可能だと思いますが、この点は知っておいてください。

日本にいたとき、20歳から約7年の間、厚生年金へ加入していたとのこと。日本とアメリカでは、年金に関して「日・米社会保障協定」が結ばれています。協定では、両国間の年金制度への加入期間を通算して、年金を受給するために最低必要とされる期間以上であれば、それぞれの国の制度への加入期間に応じた年金がそれぞれの国の制度から受けられるようにする(厚生労働省HP)、としています。

日本の年金は10年以上加入して受給できることになっていますが、納めたお金が無駄になるわけではありません。帰国が決まってからでよいので、社会保険事務所で確認することをお勧めします。

リタイアはできる?

リタイアできるかどうかですが、現在の預貯金は600万円、投資総額は7,800万円です。毎月15万円貯蓄できていますので、無駄遣いすることなく、貯められていますね。

57歳で帰国した場合、ソーシャルセキュリティを受け取る10年間の生活費を現在の支出を考慮して10万円とした場合(住居費含まず)、1,200万円が必要になる計算です。

日本円ベースで考えれば、マイホームの手当も別途、出来ていますので、セミでもフルでもリタイアすることは可能でしょう。

投資の現金化のタイミングの見極め方

今現在、ロシアによるウクライナ侵攻で、マーケット価格は低めに動いている状況です。まずは、自分の投資した額と現在額で利益が出ているのか、損出が出ているのかを見極めることが必要です。

いずれの場合も3~4回に分けて現金化することを考えておき、評価額が〇〇円になったら現金化するなどの決まりを作り、それにしたがって現金化していきましょう。

できるだけ多くのリターンが欲しいとは思いますが、ずっと持ち続けていても、必ずしも自分の思う評価額になるとは限りません。自分自身のルールで動くことが大切です。

また、このように安定しない世の中であるため、日本での年金負担を考えた場合、60歳を目安に帰国してもよいかもしれません。

海外で働くことは並大抵なことではありません。がんばって資産形成されているのは、とても立派です。資産状況から察すると、相談者様ご自身で物事を見極める力は備わっているハズと思われます。このアドバイスを参考にしながら、リタイアプランを考えてみてください。

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