春夏をまたぐ

 5月の季節感を北原白秋は詩に書き残している。〈くゎっとふりそそぐ日光/冷たい風/春と夏の二声楽(デュエット)……緑と金……〉。なるほど、この季節は「くゎっと(カッと)」降り注ぐ初夏の陽光がまぶしい一方で、朝夕の春風は少しばかりひんやりする▲「緑」は若葉、「金」は明るい日差しのことだろう。きょうは二十四節気の一つ「立夏」で、暦の上では夏を迎え、これから日ごとに夏めいてくる▲江戸の昔の川柳に〈春夏をふらふらまたぐ藤の花〉とある。春のような夏のような、二つの季節をまたぎつつ、フジの花は風にふらふら揺れる。春と夏の〈二声楽(デュエット)〉が聞こえるようでもある▲5月2日の八十八夜にちなんで茶摘みがあり、きょうの「こどもの日」に合わせて、こいのぼりが空高く舞う。本紙の地方版は季節感に彩られ、春と夏が交差する催しで県内各地はにぎわっている▲新型コロナの影響で2年続けて中止されたが、今年は再開されたという催しもかなりある。この大型連休は、もう長いこと控えてきたお出かけに心引かれる人も多いだろう▲昨年と同じように、連休明けには感染が再び広がるともみられ、対策に気を緩められない。春と夏をふらふらまたぐのこの季節、「自粛」と「行動」をうまく往来するよう心がけ、〈緑と金〉を肌で感じたい。(徹)

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