版画家・名嘉睦稔さん インタビュー 花は「命のバトン」象徴 ハウステンボスで「名嘉ボクネン展」 6月27日まで

HTBを象徴する木版画の前で話す名嘉睦稔さん=佐世保市、ハウステンボス美術館

 沖縄を代表する版画家・名嘉睦稔氏の企画展「名嘉ボクネン展-美(ちゅ)ら花、美ら光-」が佐世保市のハウステンボス(HTB)内にあるハウステンボス美術館で開かれている。HTBの建物やバラを描いた木版画4点は初公開。今年は沖縄本土復帰から50年、HTB開業30年の節目の年。過去最大規模となる企画展にかけた思いを聞いた。

 -企画展に合わせて描いた4作の制作過程で印象に残っていることは。
 本当はHTBを訪れて描きたかったが、新型コロナウイルスの影響で行くことができなかったので、写真を基にイメージで描いた。16本のチューリップとHTBの塔を描いた「ハウステンボスのチューリップ」は、卵のような形の花を、葉が包み込んで祈っているような印象を持たせようとした。
 描いたときのイメージは「価値観の重要性」。コロナ禍によって、自分にあるエゴのような心情が出てきた。例えばマスクをしていない人を攻撃するなど、多様な生きるさまを許容していない。多様な命の存在を許容する気持ちを持たないと、コロナによって自分の存在をも危うくしてしまうと思った。
 -沖縄の本土復帰から50年を迎える。被爆地長崎で企画展を開くことへの思いは。
 50年を記念して展覧会を開き、「花」をテーマにするのはとても良いなと思った。虫や風が媒介して受粉し、さらに良い生命を作ろうと花をつける。花が命の系譜をつなぐ「命のバトン」を象徴しているからだ。
 沖縄が本土に復帰したのは高校生の頃。先の戦争で3人の伯母ら、多くの親戚が亡くなった。長崎に原爆が投下された歴史もそうだが、長い時間をかけて経験してきたことは沖縄と通ずるところがある。
 -長崎の印象は。
 訪れるのは4度目。山に家が張り付いて、海のある下の方からも家がある光景が視覚的にとてもおもしろく、魅力的。本当は長崎の絵を描いて展示会を開き、長崎の人に見てもらいたいという思いが根っこにあった。可能であれば長崎を描いた作品を展示する企画展を開きたい。
 -来場者へメッセージを。
 本土復帰50年だからといって、特別に考えてほしいというわけではない。見る人が絵から受けるさまざまな心情があっていい。絵は私が伝えたいことではなく、自分が見たときに感じる思いだ。いわば、自分を見に来るようなものだ。あなた自身を見に来てほしい。

 6月27日まで佐世保市のハウステンボス(HTB)内にあるハウステンボス美術館。企画展自体は無料だが、HTBへの入場料が必要。HTB主催、長崎新聞社共催。沖縄本土復帰から50年、HTB開業30年を記念して開催する。HTBにちなみ「花」を描いた作品を中心に、過去最多となる89点を展示している。

 【略歴】なか・ぼくねん 1953年12月8日、沖縄県伊是名(いぜな)島生まれ。デザイン専門学校への進学を経て74年に本土のデザイン事務所に就職。79年に高校時代の友人とデザイン事務所を設立した。絵本の挿絵の依頼を機に版画と出会い、衝撃を受ける。89年から独学で木版画の制作を始めた。代表作は横11メートルの大作で、サンゴや魚など沖縄の海を描いた「大礁円環」。7月22日から9月25日まで、相田みつを美術館(東京都)でコラボ展を開く。

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