親子が安心できる居場所を 佐世保に「まんまーる食堂」開設 田中美貴さん

「共生の地域づくりは本当に難しい。それでも道を模索したい」と話す田中さん=佐世保市、まんまーる食堂

 さまざまな人が共生できる場所をつくりたい。そうした思いから長崎県佐世保市常盤町に「つどい場 ゆいまーる」を開設して3年。代表の田中美貴さん(51)は、新たに親子らの居場所づくりを目指し「多世代交流カフェ まんまーる食堂」を同市栄町に開いた。田中さんは「子どもや子どもを育てる親が安心して立ち寄ることができ、地域の大人はそんな彼らにそっと寄り添う。そんな仕組みをつくっていけたら」と穏やかに語る。
 同市出身。親が家業で忙しく、幼少期は親戚に預けられることが多かった。一方、地域の人には見守られ育った。そうした経験が、居場所があること、地域の中で生きることの意味を考える基盤になった。
 大学卒業後、子どもの支援に取り組むNPO団体職員などを経て准看護師や社会福祉士、ケアマネジャーなどの資格を取得。高齢者のデイケア施設で働きながら当事者や家族の支援に奔走していた。そんな中、両親が突然相次いで病気で他界。精神的に落ち込み、初めて自分が支援される側になる。
 そうなって改めて支援者としての自分を振り返ると怖くなった。当事者にちゃんと寄り添えていたのだろうか-。思い悩み、人と関わる仕事から離れることも考えた。しかし「人は人の中でしか生きられない」との結論に至り、もう一度人と向き合おうと決める。温めていた共生の地域づくり実現に向け踏み出した。
 2019年に「ゆいまーる」を開設。地域での関係が希薄になった昨今では、つながりを意図的につくる必要があると考えた。そこでいろんな人が気軽に立ち寄ることができて自然と会話も生まれるよう1階をカフェに。2階はイベントを開くスペースなどにした。
 カフェには近所のお年寄りや発達障害の子を持つ親、サラリーマンなど多様な人が訪れた。つながりづくりという当初の目的は達成されつつあったが、今度は親子、障害者、高齢者らが心地よいと思う空間は、それぞれ内容が違うことが見えてきた。

壁にはイラストが描かれ、子どもや親などが過ごしやすいようじゅうたんが敷かれた店内=佐世保市、まんまーる食堂

 各人が安心できる居場所があることが共生の前提ではないか。そう考え、すみ分けをすることに。障害者と高齢者は「ゆいまーる」を受け皿に、親子の居場所は新設することにして、今年4月に「まんまーる食堂」を開設した。
 同食堂には靴を脱いで入る。段差の無いじゅうたんが敷かれたスペースに机が数個あり床に座って食べるスタイル。9カ月の息子と一緒に訪れた同市針尾中町の鴨川さやかさん(39)は「街中には赤ちゃんと一緒にゆっくりご飯が食べられる場所がほとんど無い。食事をしながら赤ちゃんを、ごろごろさせられるスペースがあるのはありがたい」と話した。
 田中さんは「実践と当事者との対話を繰り返しながら、地域での共生の在り方を模索したい」と前を見つめる。
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 同食堂(電070.4393.4090)の開店時間は午前10時~午後5時(ランチは午前11時半~午後2時)。


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