核兵器の非人道性“告発” 日赤長崎原爆病院名誉院長 朝長万左男さん(79) 届け「ナガサキの声」 核禁会議直前インタビュー<下>

「核廃絶の道に進むか、鍵を握るのは市民。そのためにはいま一度、被爆者の声が必要だ」と語る朝長さん=長崎市松山町、県被爆者手帳友の会

 医者から見れば、核兵器は流行の病。病気を治すには廃絶しかない-。
 日赤長崎原爆病院名誉院長の朝長万左男さん(79)は医師らしい言い回しで、核兵器廃絶を説いた。2013年、ノルウェー・オスロで初めて開催された「核兵器の非人道性に関する国際会議」。21年の核兵器禁止条約発効に至る「源流」とも言える会議だった。
 それから9年。同条約の第1回締約国会議に合わせてオーストリア・ウィーンで開かれる4回目の非人道性会議。日本政府代表として、朝長さんは四たび会議に臨む。
 医師の家系に生まれた。2歳の時、爆心地から2.7キロで被爆。高校時代、被爆した同世代が白血病を発症しているという新聞記事を目にした。「白血病治療の専門家になろう」と志し長崎大医学部に進んだ。
 原爆の放射線で幹細胞の遺伝子が傷つけられてがん化し、がん細胞を増やすメカニズムを長年研究してきた。「被爆者は生涯、がんなどの発症リスクを抱える」。核兵器の非人道性を“告発”する、終わりのない活動が続く。
 締約国に核被害者支援を義務付けた同条約。支援の枠組みづくりは締約国会議の重要なテーマだ。朝長さんは国内の非政府組織(NGO)の代表らと提言をまとめ、6月に国連に提出。「実態調査・研究に当たる機関が必要」との自身の提案も反映された。現地でも最新の科学的知見を発言したいと考えている。
 10年からNGO核兵器廃絶地球市民長崎集会実行委の委員長を務める。19年には県被爆者手帳友の会会長に就任。前会長の故井原東洋一さんが亡くなる直前、バトンを渡された。医師、NGOと被爆者団体の代表、まさに今や被爆地の「顔」といえる存在だ。
 ロシアによる核兵器使用リスクが高まる中で迎える締約国会議。米国などの核保有国は条約に背を向け、日本など「核の傘」の下にある国の多くも追随する。被爆地の宿願である「核なき世界」に向けた道筋を示すことができるのか。朝長さんが注目するのは、北大西洋条約機構(NATO)加盟国で「核の傘」の下にあるドイツとノルウェーのオブザーバー参加だ。
 「こうした動きが核保有国の中で大きくなれば状況は変わる。鍵を握るのは市民。そのためにはいま一度、被爆者の声が必要だ」。自らを奮い立たせるように語った。


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