被爆者証言「今しか…」 ヒロシマの「伝承者」に 宇都宮在住・沖本さん(33)

本県から被爆体験伝承者養成事業に参加している沖本さん=7月下旬、宇都宮市

 被爆者の体験を次世代に伝える広島市の「被爆体験伝承者養成事業」に、同市出身で宇都宮市在住の会社員沖本春樹(おきもとはるき)さん(33)が参加している。被爆者の高齢化により記憶の継承が年々困難になる中、沖本さんは「今参加しなければ伝承が難しくなる」と、会社勤めの傍ら研修に励む。「何があっても核兵器を使ってはならない」。原爆投下から8月6日で77年。被爆体験と平和への祈りを受け継ごうとしている。

 同事業は2012年度に始まった。被爆の実態を学ぶ講義や被爆体験証言者とのマッチング、講話原稿の作成など、約2年の研修を通じて伝承者を養成する。これまでに174人が修了。本年度は156人が委嘱を受け、広島平和記念資料館や全国の学校で講話などに取り組んでいる。

 沖本さんの亡き祖母は原爆投下後に広島市内へ入り、残留放射線を浴びた「入市被爆者」だった。がれきになった街並みや皮膚の焼けただれた遺体-。沖本さんは高校生だったころ、祖母から広島の惨状を聞いたこともあった。しかし、「当時は伝承に興味を持てなかった」と振り返る。

 転機は19年末。旅行でベルリン郊外にあるナチス・ドイツの遺構を訪れ、強制収容所で現地を案内する若者の姿に衝撃を受けた。「広島も世界から大勢の人が訪れるのに、自分は知らないことが多いと気付いた。広島のことをもっと知りたい、伝えたいと感じた」。

 沖本さんは20年に転勤で宇都宮市へ引っ越した。将来、地元広島に戻ってから事業に参加する選択肢もあった。しかし、被爆者の高齢化を受け「今しかない」と応募を決意した。21年度から参加している。

 新型コロナウイルス禍の影響で昨年10月に2度、広島を訪れ、集中的に研修を受けた。動画を活用した自宅学習でも学びを深めた。

 2年目の本年度は1年間かけて、証言者の体験を聞き取りながら講話用の原稿を執筆し、講話の実習なども行う予定だ。沖本さんは「証言者の平和への思いを取りこぼしたくない」と力を込める。

 4月現在、伝承者の平均年齢は65歳で、沖本さんは若い世代に当たる。「30代なので数十年と長く取り組める。栃木県内でも将来、講話ができれば」と意欲を見せた。

本県から被爆体験伝承者養成事業に参加している沖本さん=7月下旬、宇都宮市

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