「ラジオ体操のようだね」。18歳でデビューした座敷で、宴会客からの痛烈な言葉が忘れられない。「笑うしかありませんでした。でも新人の踊りに対する叱咤激励だったんです。お客さまに成長させていただきました」。福井県の芦原温泉芸妓協同組合のしおりさん(52)=宮城県出身、福井県あわら市=は、34年たった今も休まず踊りの稽古を繰り返している。
入門した当時は「好景気もあって180人くらいライバルがいました」。師匠の自宅に出向き、指先まで意識した、しなやかな身のこなしや礼儀作法を必死に覚えた。足には「正座だこ」。鏡と向き合い、白塗りや紅の引き方といった化粧も試行錯誤し、気品と艶やかさを追求した。
さらに苦労したのは言葉の壁。「なかなか東北の方言が直らなかったですね。今では福井弁しか出てきませんけど」。あわらに溶け込み、はんなりと立ち振る舞うしおりさんだが「お稽古は一生修業。いまだに自分のものになっていませんよ」と謙虚だ。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、座敷宴会は月に数えるほどに激減した。「とにかく踏ん張るしかない」と、さまざまなアイデアを打ち出した。このうち変身体験が好評で「カツラのサイズさえ合えば男性でも芸妓になれますよ」とアピールする。
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2024年春に北陸新幹線の県内開業を迎え、観光需要への期待が膨らむ。一方で「通過地にならないか不安もあります。私たちはハートでお迎えし芦原温泉の魅力を広めていくしかありません」と意気込む。
芸妓に定年はなく「ずっと続けられたら」とし「早くマスクをとって楽しいお酒が飲めるようになるといいですね」。トンネルの出口に向け、もてなしの技と心を磨き続ける。